修羅雪姫 怨み恋歌

作品鑑定
邦題修羅雪姫 怨み恋歌
英題Lady Snowblood: Love Song of Vengeance
公開年1974
製作国日本
監督藤田敏八
主演梶芽衣子

概要

前作『修羅雪姫』が、母の怨念を背負って生まれた雪による一直線の復讐劇だったのに対し、『修羅雪姫 怨み恋歌』はかなり性格の違う続編である。雪は前作の復讐の果てに死刑囚となり、処刑直前に特高警察に奪い去られる。そして命と引き換えに、国家権力の仕事を強いられることになる。

この設定だけを聞けば、前作以上にスケールの大きな復讐劇や陰謀劇が始まりそうに見える。実際、特高警察、極秘文書、思想犯、疫病、貧民街の焼き払いと、題材自体は相当に物騒である。敵の悪辣さも十分に強い。ところが、実際の映画はそこから思うように熱を上げていかない。話を大きくしたぶん、標的がぼやけ、設計が雑になり、見せ場の説得力まで崩れていく。結果として、前作のような高温のリベンジ映画にはならなかった。

本作の評価を一言でまとめるなら、敵の悪は強いが、敵が馬鹿で弱く、脚本と演出の粗さがそのまま作品の温度を下げている続編、ということになる。

※採点基準の概要は「リベンジ映画鑑定要領 Ver1.3(概要)」をご覧ください。

1 不条理(被害者の無実性)3/5
2 喪失(奪われたものの重さ)4/5
3 被侮蔑(加害者からの見下し)4/5
4 標的(復讐対象の明確さ)2/5
5 敵の悪(情状酌量の余地)5/5
6 後味(結末のカタルシス)2/5
7 配役(復讐者の説得力)5/5
8 演技(感情の爆発度)4/5
9 演出(執行のスタイリッシュさ)2/5
10 伏線回収(因果応報の納得感)1/5
11 倫理の納得感(観客の同調率)3/5
12 敵の歯ごたえ(難易度と落差)1/5
基礎点合計(1〜12)36/60

各項目講評

1 不条理:3/5

雪は前作での大量殺人によって死刑囚となっており、今回の窮地は完全に無辜の被害というわけではない。ただし、その立場につけ込まれ、国家権力に一方的に利用される流れは十分に理不尽である。完全不条理の5点ではないが、単なる自業自得とも言えないため、3点が妥当と判断した。

2 喪失:4/5

本作でも雪は自由な人生を持てない。ようやく死ぬことで終われるはずだった人間が、今度は国家の道具としてもう一度使われることになる。さらに、物語の中では情のつながりも再び壊されていく。前作ほどの壊滅感ではないが、人生のやり直しがきかないという意味で損失は大きい。

3 被侮蔑:4/5

特高側は雪を一人の人間ではなく、使い捨て可能な便利な刃物として扱っている。死刑囚であることを逆手に取り、「生かしてやる代わりに働け」と命じる構図そのものが、かなり強い侮蔑である。人格否定の徹底という点では前作よりやや弱いが、標準を明確に超える。

4 標的:2/5

本作はここが大きく弱い。前作のように、この仇を討つという個人復讐の鋭さがない。相手は菊井を中心としながらも、特高、国家権力、政治的陰謀へと広がっていく。顔のある敵はいるが、観客の怒りを一点に集中させる作りにはなっていない。標的のぼやけは、続編全体の温度を下げる最大の要因の一つである。

5 敵の悪:5/5

ここは高い。国家権力が死刑囚を闇の仕事に使い、思想犯や反体制側を抹殺し、さらに疫病まで利用して貧民街を一掃しようとする。本作の敵は、単なる悪党というより、制度を背負った外道である。悪のスケール自体は前作以上と言っていい。

6 後味:2/5

見終わったあとに残るのは達成感ではなく、かなり冷たい感触である。雪は前作に引き続き平穏な場所へ戻れず、物語全体も救済よりは苦味の方が強い。完全絶望の1点にまでは落とさないが、再生や希望が感じられる作品でもないため、2点が適正である。

7 配役:5/5

梶芽衣子はやはり強い。この続編の弱い脚本や雑な展開の中でも、雪として画面に立った瞬間の説得力は揺るがない。冷えた眼差し、静かな怒り、立ち姿だけで成立する存在感は、このシリーズの最大の武器である。本作がかろうじて映画として踏みとどまっているのは、かなりの部分で彼女の力による。

8 演技:4/5

雪は前作同様、感情を外へ大きく爆発させるタイプではない。抑えた芝居で冷たさや哀しみを滲ませていく。その点で梶芽衣子の演技は十分に効いている。ただし、映画全体の構成が弱いため、彼女の演技が最大限に生き切っているとは言いにくい。高水準ではあるが満点には届かない。

9 演出:2/5

ここは大きく下げた。題材だけ見れば見せ場になりそうな要素は多い。死刑執行寸前の奪取、国家の陰謀、極秘文書、疫病、貧民街の焼き払いと、映画的に料理できる材料はそろっている。ところが実際には、その多くが雑な段取りで処理されてしまう。特に、菊井が自ら現場に顔を出して堂々と放火する場面などは、恐怖や不気味さより先に「そんなことをするはずがない」という違和感が立ってしまう。梶芽衣子の存在感を十分に支えられていない演出という意味で、2点が妥当である。

10 伏線回収:1/5

本作最大の減点項目である。特に極秘文書の扱いが致命的だ。物語の肝として長く引っ張られ、徳永乱水が命がけで守り、火事の中からも持ち出された重要文書が、終盤であっさり投げ捨てられる。この時点で、序盤から積み上げてきた緊張感と因果の線が切れてしまう。さらに、雪を処刑直前にわざわざ襲撃して奪う導入や、疫病を用いた作戦そのものも、理屈より都合が先に見えてしまう。伏線が終盤の快感に結びつくどころか、むしろ雑さとして表に出てしまっているため、1点まで下げた。

11 倫理の納得感:3/5

雪が国家権力に利用され、そこから反転していく構図には十分に乗ることができる。ただし、本作は私怨の純度が前作より低く、政治劇や思想劇の要素が入り込むぶん、観客の感情もやや散る。相手が外道であることは明白だが、復讐の筋道が単純ではないため、迷いなく5点とはならない。

12 敵の歯ごたえ:1/5

最終的にここは1点まで下げた。国家権力という設定上の大きさはあるが、それはあくまで背景であり、実際に雪の前に立ちはだかる敵は驚くほど弱い。警戒も浅く、動きも雑で、雪にとって大した障害になっていない。絵としてはほとんど不戦勝に近い場面すらある。敵の悪さと敵の強さは別であり、本作の敵は前者は高いが後者は極端に低い。したがって1点が妥当である。

最終鑑定点:108/300

格付け:D級(不発)

『修羅雪姫 怨み恋歌』は、前作よりも大きな敵を相手にしている。国家権力、特高警察、極秘文書、疫病、焼き払い。扱っている題材だけを並べれば、むしろ前作以上に苛烈で、スケールも大きい。

しかし、リベンジ映画として見た場合、そのスケールアップがそのまま熱量にはつながっていない。標的はぼやけ、敵は馬鹿で弱く、脚本と演出は肝心なところで雑になる。前作のような「この相手を必ず討つ」という一直線の怨念が薄れ、政治劇として話を広げた結果、復讐映画としての温度は大きく下がった。

それでも梶芽衣子は強い。雪という存在は依然として魅力的だし、敵の悪も十分に憎たらしい。だが、その素材の強さを映画が生かし切れていない。結果として、本作は高温の続編ではなく、雑さによって熱が逃げていく続編になってしまった。

108点、D級。不発。

この数字は厳しいが、今回の内容を振り返るとかなり妥当だと思う。
悪くなりようはいくらでもある題材を抱えながら、復讐映画としての快感に結びつけられなかった。それが『修羅雪姫 怨み恋歌』の決定的な弱さである。

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