作品情報
| 邦題 | ジョン・ウィック |
| 原題 | John Wick |
| 公開年 | 2014 |
| 製作国 | アメリカ |
| 監督 | チャド・スタエルスキ |
| 主演 | キアヌ・リーブス |
概要
映画『ジョン・ウィック』は、亡き妻の最後の贈り物である子犬を殺され、愛車を盗まれた男が、その犯人(ヨセフ)と、さらに自分の命の恩人を殺したヴィゴ(ヨセフの父親)へと報復を重ねていく作品である。復讐の主体は明確であり、標的も終始はっきりしている。リベンジ映画鑑定所向きの映画である。現代アクション映画における執行カタルシス型リベンジ映画の代表例として、かなり重要な一本である。
本作の強さは、燃料を過剰に盛ることではなく、その燃料を執行へ変換する速さと正確さにある。ジョン自身が語る通り、妻の死によってすべてを失った彼にとって、あの犬は孤独を忘れるための唯一の希望だった。その希望を奪われ、しかも目の前で殺される。ここで観客は、この男が単に昔の殺し屋へ戻るのではなく、踏みにじられた希望の残骸を背負って元の世界へ引き戻されるのだと理解する。燃料は大仰ではないが、非常に刺さり方がうまい。
さらに優れているのは、復讐の動機が途中で崩れないことである。最初の怒りはヨセフへ向かう。しかし、ヴィゴが息子を守るために殺し屋を送り込み、自ら戦線を拡大させた時点で、父もまた明確な敵になる。その後、ジョンはヨセフを自分の手で殺すが、今度はヴィゴが命の恩人であるマーカスを殺したことで、終盤のヴィゴ殺しには別の動機が加わる。つまり本作は、標的が曖昧に拡散する映画ではない。動機が段階ごとに切り替わり、そのつど殺す理由がはっきりしている映画である。
この構造が効いているからこそ、本作は大量殺戮の映画でありながら、観客の視線がぶれにくい。ヨセフ殺しとヴィゴ殺しは、同じ感情の延長として雑にまとめられていない。前者は希望を奪った張本人への報復であり、後者は事態を拡大させ、自分の命の恩人を殺した相手への決着である。復讐の向きがその都度整理されているから、物語は激しく動いても芯が散らない。
そのうえで、本作を高く評価すべき最大の理由は、執行の快感が極めて強いことである。ジョン・ウィックは無傷の怪物ではない。何度も被弾し、消耗し、追い込まれる。それでも止まらない。ナイトクラブ襲撃、ホテルを軸にした攻防、終盤の決着に至るまで、観客はこの男の前進を息切れせず見続けられる。ここでは世界観、配役、演技、アクション設計、編集、音の使い方がすべて執行カタルシスの方向へ揃っている。
しかも本作は約100分という長さが非常に効いている。無駄なシーンがほとんどなく、怒りの点火から執行までハイペースで突き進む。テンポの良さは単なる見やすさではなく、復讐劇としての圧力そのものになっている。近年のアクション映画には、見せ場の合間に余計な停滞を挟んで自ら熱を逃がす作品も少なくないが、本作は無駄がない。復讐の熱が冷める暇を与えず、最後まで一気に見せる構成は見事である。
一方で、本作は燃料の規模だけで聖典級へ届くタイプではない。喪失は強いが、家族壊滅型ほどではない。標的も最初から最後まで一個人の顔に凝縮するわけではない。伏線回収で唸らせる映画でもない。つまり、怒りの燃料や脚本の精密さで頂点に立つ作品ではない。その代わり、本作は復讐を見せる技術そのもので高く立つ。そこがこの映画の本質である。
鑑定報告(Ver 1.3基準)
※採点基準の概要は「リベンジ映画鑑定要領 Ver1.3(概要)」をご覧ください。
| 1 不条理(被害者の無実性) | 4/5 |
| 2 喪失(奪われたものの重さ) | 3/5 |
| 3 被侮蔑(加害者からの見下し) | 5/5 |
| 4 標的(復讐対象の明確さ) | 4/5 |
| 5 敵の悪(情状酌量の余地) | 4/5 |
| 6 後味(結末のカタルシス) | 4/5 |
| 7 配役(復讐者の説得力) | 5/5 |
| 8 演技(感情の爆発度) | 5/5 |
| 9 演出(執行のスタイリッシュさ) | 5/5 |
| 10 伏線回収(因果応報の納得感) | 3/5 |
| 11 倫理の納得感(観客の同調率) | 4/5 |
| 12 敵の歯ごたえ(難易度と落差) | 5/5 |
| 基礎点合計(1〜12) | 51/60 |
基礎点の根拠
1 不条理:4/5
被害は十分に理不尽である。亡くなった愛する妻から届いた最後の贈り物を、無理解で傲慢な若者に踏みにじられる導入は強い。ただし、ジョンは完全に無垢な一般市民ではなく、裏社会の伝説としての過去を持つため満点にはならず。
2 喪失:3/5
殺された子犬は亡き妻からの最後の贈り物であり、孤独を忘れるための希望そのものだった。ただし、配偶者そのものの直接喪失でもなく、家族壊滅型の損害でもないため3点にとどめる。
3 被侮蔑:5/5
ヨセフはジョンをただの冴えない男としか見ていない。車を欲しがり、断られると逆上し、家に押し入り、犬を殺す。相手が何者かも知らず、完全に舐めてかかる様子は最高の燃料となる。車屋や父親からジョン・ウィックについて聞かされるシーンは見ものである。
4 標的:4/5
当初のターゲットはヨセフだが、ヴィゴが息子を守るために殺し屋をジョン・ウィックの自宅に派遣して被害拡大、ヴィゴは保身のために息子を売ってヨセフは死亡。ヴィゴがジョン・ウィックの命の恩人であるマーカスを殺したため、最終的にはヴィゴとの一騎打ちに。標的は終始明確だが、最後まで一個人の顔だけに凝縮する型ではない。
5 敵の悪:4/5
ヨセフの軽薄さと残酷さは、観客の怒りを生むには十分である。ただし、敵の悪が児童加害や拷問趣味のような特級外道として描かれるわけではない。裏社会の暴力としては強いが、満点までは置かない。
6 後味:4/5
ジョンはヴィゴを倒し、新しい犬を連れて歩き出す。妻を失った穴そのものは埋まらないが虚無や絶望は無い。
7 配役:5/5
キアヌ・リーブスの立ち姿だけで、この男がただ者ではないと観客に納得させる力がある。静けさ、悲壮感、殺気が同居しており、絶対に復讐を果たすその顔つきは非常に強い。
8 演技:5/5
本作は説明的な台詞より抑制と身体で見せる。キアヌは喪失、怒り、再起動を大げさに喚かずに通し切る。ヴィゴも息子の愚行に頭を抱える父と組織の長を両立させており、主要人物の感情は十分に伝わる。
9 演出:5/5
本作は執行カタルシスを見せる演出が極めて強い。銃撃と格闘のスピード感、照明、音、間の取り方に加えて、約100分という長さにまとめて無駄な場面がほとんど無い。
10 伏線回収:3/5
因果は明快で、物語運びにも無理はない。ただし、本作は精密な伏線を敷いて終盤で唸らせるタイプの映画ではない。
11 倫理の納得感:4/5
観客はジョンに強く肩入れできる。相手もほぼ裏社会の武装した人間に限られ、各殺害にはその都度理由がある。ただしジョン自身も裏社会の出身であり、完全に無垢な被害者の報復とは言いきれない複雑さが残るため5点には届かず。
12 敵の歯ごたえ:5/5
ジョンは伝説級の殺し屋だが、ヴィゴの組織にはかなり手こずり、最後は満身創痍の状態だ。
13 執行精度(倍率): ×5
傷を負いながらも歩みを止めず、自分の手で決着をつける。無傷の蹂躙ではなく、不屈の継続による執行である。
最終鑑定点:255/300(基礎点合計×執行精度)
格付け:B級(良作)
総評
『ジョン・ウィック』は、燃料の規模そのものより、執行の見せ方が上手いリベンジ映画である。亡き妻が残した唯一の希望を踏みにじられた怒りは明快で、被侮蔑も強い。ただ、本作が本当に優れているのはそこだけではない。執行シーンのそれぞれを快感として見せる力が非常に強い。喪失や伏線回収で唸らせるような作品ではないが、執行カタルシス型リベンジ映画としては極めて完成度が高い。
本作の数字がA級に届かなかったのは、燃料の規模と標的の凝縮度、伏線回収の精密さにある。しかし、その不足を補って余りあるほど、アクションシーンの見せ方が上手い。傷を負っても前に進む不屈の闘志、無駄のないテンポ、そして納得のキャスティング、『ジョン・ウィック』は、復讐を見せる技術そのものが作品の看板になった一本である。


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