ライダーズ・オブ・ジャスティス

デンマーク
邦題ライダーズ・オブ・ジャスティス
原題Riders of Justice
公開年2020
製作国デンマーク
監督アナス・トマス・イェンセン
主演マッツ・ミケルセン、ニコライ・リー・カース

概要

導入から強い燃料がある。不条理な喪失、明確な怒り。だが本作は、その燃料を王道の仇討ちへつなげない。途中から、悲劇に意味を与えたがる人間の危うさと、その仮説を暴力で実行する怖さへと軸が移る。

最大の問題は、最初の報復がそもそも誤爆だったことだ。オットーたちの推論をもとに、ライダーズ・オブ・ジャスティスが妻の死に関与していると信じて動く。後半でその推論は崩れる。倒す相手が犯罪グループである以上、終盤の全滅に観客はある爽快感を覚える。だがそれは「妻の仇を討った」快感ではない。

この映画の誠実さは、それを曖昧にごまかさないところにある。顔認証めいた推論、確率、相関の連鎖を、オットーたちは真実への道として扱う。映画はそれが後付けの意味づけにすぎないと何度も突き返す。冒頭とラストの自転車のくだりもその主題を静かに支える。本作の本筋は復讐の達成ではなく、意味のない喪失を前に人がどう物語を作り、他者とつながり直すかにある。

執行カタルシス型として測れば点は低い。不条理と喪失は強いが、標的の精度、倫理の納得感、執行精度は大きく下がる。伏線回収だけは単純に低く処理できない。序盤の危うい推論は後半で誤爆と判明し、その誤認が報復の連鎖を招く。危うい仮説を暴力で実行したこと自体が、そのまま報いとして返ってくる。回収の向きは皮肉と崩しだが、序盤の配置が終盤で必然として返る設計は本物だ。

※採点基準の概要は「リベンジ映画鑑定要領 Ver1.3(概要)」をご覧ください。

1 不条理(被害者の無実性)5/5
2 喪失(奪われたものの重さ)3/5
3 被侮蔑(加害者からの見下し)2/5
4 標的(復讐対象の明確さ)2/5
5 敵の悪(情状酌量の余地)2/5
6 後味(結末のカタルシス)4/5
7 配役(復讐者の説得力)5/5
8 演技(感情の爆発度)4/5
9 演出(執行のスタイリッシュさ)4/5
10 伏線回収(因果応報の納得感)4/5
11 倫理の納得感(観客の同調率)2/5
12 敵の歯ごたえ(難易度と落差)3/5
基礎点合計(1〜12)40/60

基礎点の根拠

1 不条理:5/5
マークスの側から見れば、妻の死は完全に予見不能だ。日常の延長で突然奪われる型であり、不条理の燃料は最大級でよい。

2 喪失:3/5
失ったのは配偶者。要領の標準点に当たる。家族皆殺しの規模ではないが、燃料としては十分に重い。

3 被侮蔑:2/5
ライダーズ・オブ・ジャスティスは、そもそもマークス個人を視野に入れていない。侮辱や人格否定の明示は弱く、侮蔑の不在に近い。

4 標的:2/5
後半で標的認定が大きく揺らぐ。最初の制裁は「妻の死に責任がある相手」として完全に誤爆だ。巨大な概念相手ではないが、そもそも報復する相手を間違えている。

5 敵の悪:2/5
後半の組織は明確に危険だが、それが「妻を奪った仇」の邪悪性と一致しない。一般的な犯罪組織としての悪はあるが、本作の燃料を正面から受け止める敵としては焦点が鈍い。

6 後味:4/5
エマは戻らず、虚しさは残る。だがラストでマークスと娘マチルデの関係は回復し、仲間も全員揃う。完全再生とは言わないが、救済の方向へ明確に着地している。

7 配役:5/5
マッツ・ミケルセンの顔と体は、感情を言葉で処理できず暴力へ流れる男として非常に説得力がある。無口さ、危うさ、悲しみが立ち姿だけで成立する。

8 演技:4/5
マークスの不器用さ、オットーたちのずれた善意、マチルデの痛みがそれぞれきちんと伝わる。終盤の崩れ方と再接続の感情線はよい。ただしコメディと暴力のあいだを揺れるトーンが、5点の圧倒的な感情伝達を妨げる。

9 演出:4/5
銃撃戦の緊張と、静かな哀しみから唐突な暴力への切り替えは印象に残る。ただし本作はあえてねじれを残す設計であり、純粋な溜めから解放への演出としては一段落ちる。

10 伏線回収:4/5
序盤の危うい犯人特定作業は後半で誤爆と判明し、その誤爆が報復の連鎖を招く。過信が大惨事を生んだという必然は強い。回収の向きが皮肉方向であっても、序盤配置が終盤で返る設計は評価できる。

11 倫理の納得感:2/5
悲しみには同情できる。敵も危険であり、撃ち返されて当然の面もある。だが最初の報復が誤爆だったと判明する以上、観客が最後まで迷いなく肩入れできる型ではない。

12 敵の歯ごたえ:3/5
終盤では武装して反撃し、人質を取り、家を襲撃する。対決相手として一定の強度はある。ただし圧倒的な知略や巨大な支配力を見せるわけではなく、標準的な障害強度にとどまる。

最終鑑定点:40/300(基礎点合計×執行精度)

格付け:D級(不発)

『ライダーズ・オブ・ジャスティス』は、復讐映画の顔で始まり、その中身を自ら崩す作品だ。喪失は重く、不条理も強い。後半の敵も明確に危険だ。だがその敵が本当に「妻の仇」なのかという芯が最後まで揺らぐため、仇討ちのカタルシスは成立しない。

代わりに本作が描くのは、理不尽な喪失に耐えられない人間が、顔認証めいた推論で無理に意味を与え、その仮説を暴力で実行してしまう怖さだ。かなり意地の悪い映画である。だが意地が悪いのは誠実さの表れで、偶然の連鎖に意味などないかもしれないという主題を、最後まで逃げずに保っている。40点、D級。執行カタルシスの不発ではなく、そもそも執行の対象が最初から存在しなかった映画である。

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