復讐の歌が聞える

作品鑑定
邦題復讐の歌が聞える
原題復讐の歌が聞える
公開年1968
製作国日本
監督貞永方久、山根成之
主演原田芳雄

概要

映画『復讐の歌が聞える』は、石原慎太郎の小説『青い殺人者』を元に石原自身が脚本を書いた1968年の松竹映画である。貞永方久と山根成之の共同監督による作品で、二人の監督昇進第一作でもある。劇場公開は1968年9月17日、上映時間は90分。原田芳雄の映画デビュー作としても知られる。ちなみに石原慎太郎が参議院議員に初当選したのが1968年7月7日だ。監督2名で分業にして選挙までかもしくは当選した場合の政治日程に備えて急いで作りたかったのかもしれない。

本作は、骨格だけ見れば執行カタルシス型リベンジ映画である。竹中は、城所に父の会社と恋人を奪われ、父と兄を死に追い込まれる。自らも城所殺しに失敗して服役し、出所後に関係者を順番に始末しながら、最後に城所へ到達する。誰が何を奪われ、誰に怒り、最後に誰へ決着をつけるのか。そういう事実自体ははっきりしている。

ただし、本作には大きな弱点がある。それは復讐の理由を観客に体感させる部分が薄いことだ。映画は竹中の出所から始まるため、それ以前の出来事、つまり会社がどう奪われたのか、父と兄がどれほど追い詰められたのか、城所以外の関係者がどこまで悪辣だったのかを、観客はフラッシュバック的な見せかたでしか把握できない。竹中の怒りの源を頭では理解できても、その痛みや屈辱を共感しづらい。

つまり、竹中の殺意は理解できても、途中で始末される城所の部下まで同じ熱量で憎めるかというと難しい。竹中が殺すと決めた以上、それなりに悪い連中なのだろうと想像はできる。しかし、どこまで何をした人間なのかが薄いので、処刑の一つひとつに強い納得が生まれにくい。復讐の工程は並んでいるが、観客の感情がそこへ十分についていかない。見せられているのは復讐の手順であって、復讐感情の高まりではない。

映画として見ても、この弱さはかなり大きい。二人の新人監督が分業したという制作事情のせいか、復讐の流れが一本の感情線としてつながるより、場面ごとに切れて見えやすい。しかもそれぞれの復讐方法に疑問を感じるものも多く、どうもいまいちクライマックスに向けての盛り上がりに欠ける。

※採点基準の概要は「リベンジ映画鑑定要領 Ver1.3(概要)」をご覧ください。

1 不条理(被害者の無実性)3/5
2 喪失(奪われたものの重さ)3/5
3 被侮蔑(加害者からの見下し)3/5
4 標的(復讐対象の明確さ)5/5
5 敵の悪(情状酌量の余地)3/5
6 後味(結末のカタルシス)3/5
7 配役(復讐者の説得力)3/5
8 演技(感情の爆発度)3/5
9 演出(執行のスタイリッシュさ)3/5
10 伏線回収(因果応報の納得感)2/5
11 倫理の納得感(観客の同調率)2/5
12 敵の歯ごたえ(難易度と落差)2/5
基礎点合計(1〜12)35/60

基礎点の根拠

1 不条理:3/5

父の会社を奪われ、父と兄が死に追い込まれるという発端は重い。ただ、父と兄がどういう人物だったのかさっぱりわからず、その喪失が観客に実感できるほどには描かれない。

2 喪失:3/5

家業と家族を失っている以上、事実としての損失は大きい。ただ、父や兄との関係が深く描かれないため、喪失の絶望を観客が実感しづらい。

3 被侮蔑:3/5

竹中一家が踏みにじられたことはわかる。だが、城所以外の関係者がどう関わり、どこまで竹中側を侮辱したのかが薄い。怒りの理由は通るが、屈辱の感触は弱い。

4 標的:5/5

怒りの中心は最後まで城所でぶれない。途中の殺しがあっても、竹中が本丸として見ている相手は明確である。ここは高く置ける。

5 敵の悪:3/5

城所らが全滅するほど憎まれているのはわかる。ただ、その悪質さのレベルが観客の実感として十分に蓄積されていない。城所の部下たちは記号としての悪役に過ぎない。

6 後味:3/5

最後に城所まで届くので、決着の形そのものはある。ただ、そこへ至る感情の積み上げが薄いため、突き抜けた解放感にはならない。終わったことはわかるが、強い達成感は残りにくい。

7 配役:3/5

原田芳雄は竹中の荒さと執念を出している。ただ、復讐者として画面を支配し切るところまでは行っていない。中心には立っているが、配役の強さが作品を押し上げるほどではない。

8 演技:3/5

役者はそれぞれ仕事をしているが、演技だけで燃料の薄さを埋めるところまでは行かない。原田芳雄にも勢いはある。ただ、感情の流れを俳優の力だけで太くしている印象は弱い。

9 演出:3/5

復讐の実行場面は良くも悪くも工夫はある。だが、怒りの蓄積から爆発へ至らせるような演出とは言えない。

10 伏線回収:2/5

過去に何があったかという輪郭は示される。しかし、それが終盤の決着へ気持ちよく収束する感じは弱い。あるのは事情説明であって、復讐の設計図としての快感ではない。

11 倫理の納得感:2/5

城所は殺されて当然だという竹中の熱意はなんとなく伝わる。ただし、途中で次々と始末される部下たちまで同じ強さで殺される必要があるのかどうかがよくわからない。

12 敵の歯ごたえ:2/5

城所との最後の格闘は戦闘能力が互角でなかなか決着がつかず無駄に長い、部下たちに至ってはほとんど歯ごたえは無い。

最終鑑定点:105/300(基礎点合計×執行精度)

格付け:D級(不発)

『復讐の歌が聞える』は、骨格としては執行カタルシス型リベンジ映画である。奪った相手を始末するという目的が明確だからだ。ただ、その骨格を十分に生かせていない。理由は単純で、復讐の実行場面を急ぐあまり、観客に燃料を供給する部分が薄いからである。その結果、城所への殺意は共有できても、カタルシスが突き抜けない。完全に燃料不足だ。

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