作品情報
| 邦題 | 死と処女 |
| 原題 | Death and the Maiden |
| 公開年 | 1994 |
| 製作国 | アメリカ・イギリス・フランス |
| 監督 | ロマン・ポランスキー |
| 主演 | シガニー・ウィーバー、ベン・キングズリー、スチュアート・ウィルソン |
概要
パウリナ(シガニー・ウィーバー)は、前独裁政権下で反政府活動に関わっており、後にパウリなの夫となるジェラルド(スチュアート・ウィルソン)に関する情報を吐かせるために拉致監禁され、凄惨な暴行を受けた。
政権が変わり、国は前政権時代の人権侵害を調べる委員会を立ち上げ、弁護士であるジェラルドは委員長に選ばれる。だが、委員会が扱うのは死亡事件に限られるため、生きているパウリナは対象外だ。そんな委員会の委員長を引き受ける夫に対して不満を募らせる。
嵐の夜、帰宅途中にジェラルドの車がパンクし、車はその場に置いて、通りかかった医師ロベルト・ミランダに自宅まで送ってもらった。ロベルトは一旦帰るのだが、忘れ物を届けに戻ってきたついでに夫と飲み始めた。パウリナはミランダの声に違和感を感じ、ミランダの車を奪って逃走。パウリナは監禁時に目隠しされていたため犯人の顔は見ていないのだが、ミランダの声や、車内のシューベルトのカセットから、彼こそが自分を拷問した医師だと確信。車を崖から落として処分し、自宅に戻ったパウリナはソファで寝ているミランダを拘束し、銃を向けて尋問を始める。
鑑定報告(Ver 1.4基準)
※採点基準の概要は「リベンジ映画鑑定要領(概要)」をご覧ください。
| 1 不条理(過失相殺) | 4/5 |
| 2 喪失(損害規模) | 4/5 |
| 3 被侮蔑(ナメられ) | 5/5 |
| 4 報復対象(安定性) | 4/5 |
| 5 敵の悪(邪悪性) | 3/5 |
| 6 後味(生存希望) | 2/5 |
| 7 配役(適正顔) | 4/5 |
| 8 演技(感情伝達) | 5/5 |
| 9 演出(爆発の美学) | 4/5 |
| 10 伏線回収(因果応報の設計) | 4/5 |
| 11 倫理の納得感(観客同調) | 3/5 |
| 12 敵の歯ごたえ(障害強度) | 4/5 |
| 基礎点合計(1〜12) | 46/60 |
基礎点の根拠
1 不条理:4/5
パウリナは当時反政府組織と関わり、ジェラルドの居所を知る人物として狙われたため、拉致監禁暴行については全くの不条理とは言えないが、そもそも暴行を受けたのはジェラルドのために口を割らなかったからであり、解放されて戻ってみるとジェラルドには別の女がいたという、二重の意味で不条理と言える。
2 喪失:4/5
パウリナは心身共に激しく傷つけられ、おそらくその暴行が原因で子供が出来なくなってしまったと思われる。事件後も自宅に近づくものに対して極端に警戒するなど平穏な日常を送ることすら困難になっている。
3 被侮蔑:5/5
拉致監禁暴行事件そのものの侮蔑もあるが、犯人達は政権交代後素性を隠して日常を送っているということ自体がパウリナにとって侮辱的と言える。
4 報復対象:4/5
対象は自身に暴行を加えたミランダである。声、笑い方、口癖、匂い、シューベルトのカセットなどの状況証拠に加えて、強要されて自白している際にボロを出したことがパウリナの確信につながった(ロープと電気コードの件)。しかし、あくまでパウリナの推測であるため、断定は出来ない。
5 敵の悪:3/5
ミランダは医師の立場を利用し、拘束されて動けない相手に性暴力を加えた。しかも最後の告白によると全く反省している様子は無い。ただし、映画では状況の説明が台詞によるもののみであることと、あくまでミランダが犯人であろうという推測しか出来ない。
6 後味:2/5
清々しく終わらない。崖っぷちでのミランダの告白は全く反省している様子は無い。ミランダを崖から突き落としかけるが、結果的に解放してしまう。
7 配役:4/5
シガニー・ウィーバーの拷問されてもいかにも口を割らなそうなキャラクターがはまっている。ミランダもジェラルドも違和感はない。
8 演技:5/5
シガニー・ウィーバーは15年経っても忘れることの無い激しい恨みと強靱な意志を貫くパウリナ役を好演している。ベン・キングズリー演じるミランダの最後の生々しい告白シーンの胸クソ悪さが本作の最大の見せ場だ。
9 演出:4/5
ポランスキーは、ほぼ一軒家と崖だけで三人それぞれを追い込んでいく。嵐の夜、停電、つながらない電話、拘束された男、夫婦の過去と限られた設定で最後まで緊張感が途切れない。崖っぷちでのミランダの告白とその後の夫婦の行動は反カタルシスを狙った演出としては大成功だ。ミランダが目隠しされて崖の際まで歩かされるシーンはかなりスリリングだ(見えているのだろうが)。
10 伏線回収:4/5
シューベルトのカセット、声、笑い方、ニーチェの引用などが、ミランダ特定の材料になる。とくに効くのは、ロープと電気コードの罠だ。しかし演出的にはささやかだ。
11 倫理の納得感:3/5
ジェラルドを守るために拷問と性暴力を受けたにも関わらずそのジェラルドに裏切られ、納得のいかない人権委員会の委員長にそのジェラルドが就任するなど、パウリナには同情する面は多々ある。しかし、結果的にパウリナの勘は当たっていたようだが、客観的に観てミランダが犯人である理由の根拠が薄いため、完全にパウリナに肩入れできるものではない。また、冒頭でパンクしたテンパータイヤを付けたジェラルドに対するパウリナの態度には違和感がある。
12 敵の歯ごたえ:4/5
法とパウリナの間で揺れるジェラルドの存在が結果的にミランダの立場を強めている。崖での赤裸々な告白もミランダにとっては賭けに勝ったようなものだ。
13 決着成立度(倍率): ×1.0
結局ミランダはパウリナに対する暴行を悔いるどころか正当化して挑発する有様だ。ジェラルドが崖から突き落としかけたが踏みとどまり、パウリナはミランダを解放する。自白を引き出したという意味では成果があったと言えなくもないが、リベンジ映画としては不成立だ。
最終鑑定点:46/300(基礎点合計×決着成立度)
格付け:D級(不発)
総評
『死と処女』は、アリエル・ドーフマンの戯曲『死と乙女』を映画化したもので、リベンジ映画として必要な燃料は十分にある。パウリナは独裁政権に捕らえられ、苛烈な拷問と性暴力を受ける。さらに、民主化後の委員会は死者の事件だけを扱い、生き残った彼女の被害は対象外だ。国家も夫もパウリナを救済しないのであれば、自ら犯人を捕まえて落とし前を付けさせなければパウリナは前に進めない。そこに相手から飛び込んできた。絶好のチャンスだ。
しかし、いざ相手を目の前にしてみると思うようにはならない。弁護士であるジェラルドの立場もある。浮気して自分を裏切ったジェラルドも反省している。強要した自白でミランダがボロを出したころでパウリナが優位に立ち、崖っぷちに連れて行って自白を引き出す。最初は自制していたけど我慢が出来なくなったと、やってみたら最高だったと、終わって残念だとも言う。ミランダは何の反省も無い。ジェラルドは衝動的にミランダを崖から突き落とそうとするが、出来ない。そしてパウリナはミランダを解放する。なぜ崖から落とさなかったのか。受けた暴行とその後15年間の苦しみをパウリナはどう消化したのか。映画は明らかにしないが、トラウマであるはずのシューベルトの死と乙女を聞いているパウリナは、事件は過去のものとして決着をつけて前に進み始めたということなのだろう。執行カタルシス型リベンジ映画としては完全に不発だ。
雑記
ミランダの開き直りの告白は映画的には清々しいのが本作の嫌なところだ。『ドッグヴィル』のトムは最後の最後にグレースに執行を決断させる言葉を吐いた。だが、ミランダはパウリナに決断させなかった。トムがあそこでもし開き直っていたら違う結果だったのかもしれないし、それはミランダも同様なのではないか。


コメント