蛇の道(2024年フランス・日本・ベルギー・ルクセンブルク)

蛇の道(2024年フランス・日本・ベルギー・ルクセンブルク)
邦題蛇の道
原題Le chemin du serpent
公開年2024
製作国フランス・日本・ベルギー・ルクセンブルク
監督/脚本黒沢清/高橋洋
主演柴咲コウ、ダミアン・ボナール

概要

『蛇の道』2024年版は、黒沢清が自身の1998年版をフランスでセルフリメイクした作品で、基本的なプロットは1998年版と同じだ。娘を殺された父親が、協力者とともに事件の関係者とおぼしき人物を拉致し、真相を吐かせようとする。しかし、復讐に燃える父親自身も実は……で、協力者の本当の狙いは……という前作同様のストーリーだ。本作は柴咲コウ+フランス人俳優の組み合わせであることと、前作で哀川翔演じる新島は塾講師だったが、本作では心療内科の医師に変わった。娘を殺されて心療内科を受診する男と医師という関係になり2人の接点が明確になった。

※採点基準の概要は「リベンジ映画鑑定要領(概要)」をご覧ください。

1 不条理(過失相殺)5/5
2 喪失(損害規模)4/5
3 被侮蔑(ナメられ)4/5
4 報復対象(安定性)2/5
5 敵の悪(邪悪性)5/5
6 後味(生存希望)1/5
7 配役(適正顔)4/5
8 演技(感情伝達)3/5
9 演出(爆発の美学)3/5
10 伏線回収(因果応報の設計)2/5
11 倫理の納得感(観客同調)2/5
12 敵の歯ごたえ(障害強度)2/5
基礎点合計(1〜12)37/60

基礎点の根拠

1 不条理:5/5

小夜子にとっては不条理きわまりない。アルベールは自身にも責任の一端がある。本作品は小夜子の復讐譚という前提だ。

2 喪失:4/5

幼い娘が暴行され、その死が映像商品として販売される。家族にとっては耐えがたい喪失感だ。だが、家族全滅等の規模ではない。

3 被侮蔑:4/5

ミナール財団は、子供を金儲けのためのとしかみなしていない。臓器を抜き、身体の一部を保存し、映像も流通させる。1998年版の児童加害ビデオ組織と同じく本作の敵は子供を商品にする。ただしアルベールは動画販売の仲介に関わっており、ある意味因果応報とも言える。

4 報復対象:2/5

標的は定まらない。終盤で小夜子の娘も財団に奪われていたことが判明、さらに、アルベール自身が動画販売の仲介に関わっており、アルベールは復讐者であると同時に、小夜子から裁かれる側へ回る。ラストで夫・宗一郎に対する疑惑が持ち上がり、小夜子の復讐はまだ終わっていないことが示唆される。

5 敵の悪:5/5

敵の悪は最高水準である。ミナール財団は、子供を選別し、児童人身売買と臓器売買を行っている。

6 後味:1/5

救いはない。マリーは戻らない。小夜子の娘も戻らない。アルベールは関係者を撃っていくが、家族は元に戻らない。ローラも死ぬ。最後には、アルベール自身が小夜子に監禁れる。小夜子も救われない。アルベールを裁いても、夫・宗一郎への疑惑が新たに持ち上がった。復讐は終わらない。

7 配役:4/5

大きな違和感はないが、なぜ日本人医師とフランス人の組み合わせにしたのか疑問だ。ティボー役をマチュー・アマルリックがよく引き受けたなと思ったが、さすがに監禁シーンは1998年版と比べてマイルドになっている。アルベール役のダミアン・ボナールも香川照之ほどの不快感はない。

8 演技:3/5

ダミアン・ボナールは香川照之が演じた宮下のような露骨な気持ち悪さがあまりないため、結果的に映画全体的に不穏さや不快感が薄まってしまった。

9 演出:3/5

1998年版の暗さや粗い質感や画面の揺れが不穏さを増長していたが、本作は明るくきれいにまとまりすぎて前作の特徴が薄れてしまった。また、クリスチャン射殺場面の編集にも違和感がある。

10 伏線回収:2/5

説明は増え1998年版よりも話は分かりやすい。財団、デボラ、臓器売買、ローラ、小夜子の娘、宗一郎と、情報は多い。だが、情報が増えたぶんアラも目立つ。マリーの遺体描写と、臓器売買ビジネスの設定は違和感がある。精密な外科医デボラが率いた財団という設定と、画面で示される被害状況が合っていない。ローラがマリーを手放した経緯やデボラとの関係とその後の展開にも疑問がある。宗一郎の疑惑も、前振りはあるにしても唐突に見え、復讐劇として観ると締まりに欠ける。

11 倫理の納得感:2/5

我が子を殺し、人身や臓器売買を行う組織に対する報復自体に違和感はないが、娘を奪われ復讐を果たす小夜子の人格に問題がある。患者の吉村に対して、心療内科医のテクニックを使って自殺に追い込むなど、サイコパス的な一面を持ち合わせており、愛する我が子のために復讐する親というキャラクターとかけ離れてしまっている。1998年版で天才少女を操る新島どころではない。

12 敵の歯ごたえ:2/5

スポーツクラブで鍛えているクリスチャン以外の相手は手強くはない。財団も国際的な犯罪組織として動いているという設定の割には施設の警戒も管理も甘い。さらに財団創設者で首謀者のデボラはすでに自殺してローラが引き継いでいるという設定も拍子抜けだ。

最終鑑定点:92.5/300(基礎点合計×決着成立度)

格付け:D級(不発)

1998年版と違うのは責任の広げ方だ。1998年版では、宮下ひとりに「娘を殺された父親」と「児童加害ビデオの販売側」という汚れが集中していた。2024年版では複数の人物に分散されている。アルベールは、娘を殺された父親でありながら、動画販売の仲介をしていた。ローラは、娘をデボラに任せた母親である。宗一郎には、小夜子の娘を売った疑いが浮かぶ。財団は子供を商品として扱う。2024年版はそれぞれの親たちの責任も描かれている。

不穏さや不快感が宮下という一人の男に集中していたのが1998年版の特徴だった。被害者面する宮下は他人の子供を食い物にする映像の販売側にいた。だから新島の「あんたがいちばん嫌いだ」という台詞が効いた。2024年版のアルベールも同じ型である。動画販売の仲介をしながら、中身は知らなかった、自分も被害者だと弁解する。ここは宮下と同じだ。しかし2024年版は当然役者の問題もあるが、ローラ、宗一郎、財団、デボラと設定を広げるため、アルベールに対する嫌な感情が薄まる。

小夜子自身の邪悪さは新島どころではない。旧作の新島は天才少女を操る塾講師という奇妙な存在だった。新島自身の危うさは、別の少女を危険に近づける程度だった。それに対して、小夜子は心療内科医で不快なものは自殺に追い込む。この点はリメイク版の新しさだ。小夜子は直接手を下さない。だが、人を死へ向かわせる。物理的には手を汚さず、相手を動かす。1998年版の新島が自分でも撃ってしまう中途半端さを持っていたのに対し、2024年版の小夜子ははっきりと外から動かすものとして描かれることで、アルベールとの立場の違いが明確になったように見える。だが、『あなたがいちばん嫌い』と言うきめ台詞を邪悪な小夜子が言ったところで少しも響いてこない。

アルベールへの処分は、1998年版と同じ形で行われる。監禁、娘の映像、最後の食事、「あなたが一番嫌い」。ここまでは旧作の反復である。だがリメイク版では、その後に宗一郎疑惑が出る。親たちの罪が次々に浮かび上がり、誰も救われない映画だ。それが本作の狙いでもあろう。

以下あらすじ

主人公アルベール・バシュレは、8歳の娘マリーを殺されて森に遺棄されているのを発見された。全身には刺し傷があり、臓器の多くが抜き取られ、頭部にも著しい損傷があるなどむごい殺されかたで、しかも殺害の様子がビデオに撮られて販売されていた。

娘を殺されたアルベールは、心療内科医の新島小夜子と出会う。そしてアルベールを小夜子の二人は、マリーの死に関わったと見られるミナール財団の関係者を次々と拉致して監禁する。

拉致1:財団の元会計係ティボー・ラヴァル。ティボーの自宅マンションエントランスで捕獲。寝袋に押マリーの件を否認する。だが、監禁が続くうちに、財団の内部事情を話し始める。

拉致2:財団の幹部ピエール・ゲラン。リタイア後に住んでいる田舎の自宅で拉致。小夜子はティボーとピエールの2人に対し、アルベールには内緒で別の人物を真犯人としてでっち上げろという話を持ちかけ、二人は財団警備のクリスチャン・サミーを犯人に仕立てようとする。小夜子は二人の前に銃を出し、どちらか一人だけが生き残る状況を作り、ピエールはティボーを射殺。

アルベールと小夜子はピエールを連れて財団の倉庫へ行く。そこでアルベールは、人体の一部をホルマリンに漬けたものを見つける。倉庫は、財団が児童人身売買と臓器売買に関わっていることを暗示する。アルベールはピエールを射殺する。倉庫でクリスチャンの顔写真を入手。

小夜子は心療内科の患者吉村を診察。日本に帰れば自分は終わりだと訴える吉村に対して小夜子は「終わって困るようなものがあるんですか。本当に苦しいのは終わらないことでしょ。あなたなら出来ます」と暗に自殺を幇助するようなアドバイスをし、後日吉村は自殺。

拉致3:財団の警護主任クリスチャン。スポーツクラブで格闘の末に拉致に成功。小夜子はアルベールに内緒でクリスチャンにも人違いを装うよう仕向ける。事件の首謀者である教団創設者のデボラを探しにアルベールと小夜子とクリスチャンの3人は財団施設がある廃遊園地に向かい、小夜子が「クリスチャン」と呼んで反応したため、事情を知らないアルベールは他人を装っていたクリスチャンを射殺。

廃遊園地の倉庫では、複数のモニターが並ぶ。アルベールの娘マリーの映像に続いて小夜子の娘の映像も映し出され、小夜子の『私の娘もここで殺された』という声が聞こえてくる。アルベールは初めて小夜子も自分と同じ被害者であることを知る。アルベールは財団の警備を数名倒したのち、子供に囲まれたローラを発見。

ローラは、アルベールの妻であり、マリーの母親だ。財団創設者のデボラは既に自殺しており、ローラが後を引き継いでいた。ローラはアルベールに対してマリーとの親子関係が上手くいっていなかったことを突きつけ、アルベールにマリーのことをデボラへ相談するよう言われたから自分はデボラに任せただけだと弁解。身の危険を感じたローラはアルベールを刃物で刺そうとするが、アルベールはローラを射殺する。

アルベールのところにやってきた小夜子に対し、アルベールはローラを殺して復讐が完了し、何もかも君のおかげだと感謝の気持ちを伝えるが、小夜子はアルベールをスタンガンで気絶させる。

拉致4:アルベール。「最後の食事よ」と告げて、皿の中身を床にこぼす。アルベールは動画販売の仲介をしていたが、命令に従っただけで、動画の内容は知らなかった、自分も被害者だと弁解。自分も被害者だというアルベールに娘の映像を見せる。なぜこんな仕打ちをするんだというアルベールに対して、小夜子は「あなたが一番嫌い」と告げて自転車に乗って監禁場所を去って行く。

自宅に戻った小夜子は、日本で別居中の宗一郎とテレビ電話をしている。二人だけだったなら夫婦関係は上手くいったかもしれないという宗一郎の言葉で、自分の娘を売った人物が夫ではないか、と小夜子は気づく。

小夜子の復讐はまだ終わっていない。

雑記

1998年版の良さはなんと言っても香川照之に対する不快感や気持ち悪さと画面の不安定さだった。それが功を奏した。だが、本作のアルベールから滲み出てくる不快さ気持ち悪さは足りないし、画面もなんだかおしゃれな『おフランス感』もあって前作とはガラッと変わってしまった。あと、マチュー・アマルリックってああいう役もやるんだと思って注目していたが、前作ほどの汚れ方(見た目に)ではない。ズボンを中途半端にズリ下げて大を漏らした感じでお願いしますとは言えなかったんだろうな。

あと、廃遊園地で突入前にぼろを出したクリスチャンをアルベールが射殺するシーンに違和感。何があったのか気になる。

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