作品情報
| 邦題 | Ms.パニッシャー |
| 原題 | Cry for the Bad Man |
| 公開年 | 2019 |
| 製作国 | アメリカ |
| 監督 | サム・ファーマー |
| 主演 | カミール・キートン |
概要
『Ms.パニッシャー』は病床の夫を自らの手で安楽死させたマーシャの土地を狙う地元の有力者の3人の息子に対して、マーシャが家を守り抜く籠城スリラーである。
冒頭、夫を安楽死させ、寝具の羽と血を拭き取るマーシャが映る。結婚指輪を外さず、鏡に映る自分の顔を無表情で見つめる。その6ヶ月後にマクマホン3兄弟が家の売却を迫ってくる。終盤、マーシャの脳裏に夫を安楽死させたときの記憶が蘇る。長男ウェインは瀕死の弟ビリーを見下ろしながら、慈悲を拒否して放置する。その冷酷さが引き金となり、マーシャは過去の自分の行為を思い出す。ウェインが与えなかった慈悲を、マーシャは夫に与えていた。この対比がこの籠城劇を少し深いものにしている。後半、マーシャは散弾銃を構え、襲撃に来たマクマホン兄弟を自らの手で順に仕留めていく。
鑑定報告(Ver 1.4基準)
※採点基準の概要は「リベンジ映画鑑定要領(概要)」をご覧ください。
| 1 不条理(過失相殺) | 3/5 |
| 2 喪失(損害規模) | 2/5 |
| 3 被侮蔑(ナメられ) | 3/5 |
| 4 報復対象(安定性) | 5/5 |
| 5 敵の悪(邪悪性) | 3/5 |
| 6 後味(生存希望) | 3/5 |
| 7 配役(適正顔) | 4/5 |
| 8 演技(感情伝達) | 2/5 |
| 9 演出(爆発の美学) | 3/5 |
| 10 伏線回収(因果応報の設計) | 3/5 |
| 11 倫理の納得感(観客同調) | 2/5 |
| 12 敵の歯ごたえ(障害強度) | 2/5 |
| 基礎点合計(1〜12) | 35/60 |
基礎点の根拠
1 不条理:3/5
マクマホン一族が土地を欲しがる一方的な理由で脅迫は始まり、夫の死の直後という時期に押しかける。ただし、理不尽の質そのものはジャンル内で突出するほどではなく、標準点に留める。
2 喪失:2/5
夫の死は物語開始前に起きており、今回の加害者が奪ったものではない。劇中で脅かされるのはマーシャが自分で建てたという家と身の安全であり、損害規模は軽微寄りに留まる。
3 被侮蔑:3/5
マクマホン兄弟は、老いた未亡人を簡単に押し切れる相手として扱う。侮蔑の態度は一貫しているが、人格を体系的に否定する積み上げはない。ジャンル標準の見下し方に収まる。
4 報復対象:5/5
報復の向き先は最初から最後までマクマホン3兄弟で明確だ。物語を通して焦点は揺れず、誰に報いる話かを観客が迷う場面はない。
5 敵の悪:3/5
土地強奪目的の脅迫と殺害未遂、地元警察との癒着は、ジャンル内で標準的な犯罪である。児童加害や恩人裏切りのような特級の邪悪さには届かない。ただし、瀕死の実弟を見捨てるウェインの描写は、敵方の人間性の薄さを示す補助線として機能する。
6 後味:3/5
マーシャも娘も生き残り、家も守る。ただし、夫を手にかけた過去と今回の殺傷を背負って独り残される。副保安官の射殺はどう見ても正当防衛を逸脱しており、救済と新たな希望へ回帰する結末ではない。
7 配役:4/5
キートンの配役選択は本作の存在理由である。『発情アニマル』の顔に、安楽死を引き受けた女という背景を載せる構図だけで、観客への通りは確保される。静止画の説得力はあるが、伝説級の無言の圧には届かない。
8 演技:2/5
キートンの夫を手にかけた過去を抱える女の内面が、表情と所作から読み取りにくい。兄弟三人の演技も脅威を感じさせることはなく終始間抜けである。特に長男が父親からハッタリ男と指摘されたことに対して意地を見せたのだとしても、全くつかみ所が無く、意地を感じさせない演技に見える。
9 演出:3/5
ウェインの慈悲拒否とマーシャの慈悲遂行を終盤の同じ場面で重ねる構造は機能している。冒頭の血痕処理から終盤のフラッシュバック開示までの設計もジャンル標準を満たす。ただし、兄弟が家の前で作戦会議を続ける場面など、間延びが複数箇所にある。見せ場としては成立するが、決定打には届かない。3兄弟がトランプをする場面の会話や、続く父親が長男をハッタリ男だと煽る会話が伏線として後で効いてくることも無い。
10 伏線回収:3/5
冒頭の血だらけの寝室、結婚指輪、無表情の鏡、夫の不在という配置は、終盤のマーシャの回想シーン以降で回収される。構造としては機能しているが、因果応報の設計として唸るほどの快感には届かない。標準点に留める。
11 倫理の納得感:2/5
マーシャが三兄弟を迎え撃つところまでは、自衛としてまだ筋が通る。ただし、保安官まで殺す段階に入ると、自衛を越えた過剰執行として見えやすい。観客の同調はそこで明確に落ちる。
12 敵の歯ごたえ:2/5
マクマホン兄弟は戦術面で水準に届かず、仲間を見捨てて争いを続ける場面など、敵としての機能を自分で削る描写が目立つ。保安官との癒着が組織的脅威を補う設計はあるが、物理的な手強さは最後まで上がらない。ウェインの冷酷さも、障害強度というより人格の暗さの演出に寄っている。
13 決着成立度(倍率): ×4
マーシャは自分の意思で武装し、家に立てこもり、襲撃してきた兄弟を自らの手で順に仕留めていく。偶発、第三者介入、自滅への依存はない。報復対象に対する報いが、復讐者自身の意思と行為によって決着する構造になっている。
最終鑑定点:140/300(基礎点合計×決着成立度)
格付け:D級(不発)
総評
『Ms.パニッシャー』は、邦題の煽りから想像される痛快な老女暴力映画の裏側に、尊厳死権のない土地で夫を手にかけた女の物語を組み込んだ二層構造の作品である。ウェインの慈悲拒否とマーシャの慈悲遂行を対比させる終盤の設計には見るべきものがある。だが、登場人物それぞれの心理状態がいまいち描かれておらず、何故マーシャの家を地上げしたいのかも示されず、夫を射殺したマーシャに対するお咎めの有無も示されず、副保安官とマクマホン一家の具体的なつながりも示されず、何故マーシャはかたくなに家を手放そうとしないのかも具体的には示されず(南部の高齢者にありがちな気質だけでは筋が通らない)、いろいろと何でそうなっているのかよくわからないままでは執行カタルシス型リベンジ映画としての快感はやはり弱い。
雑記
カミール・キートンに銃を持たせて男どもを撃ちまくればそれだけでOKというものでもないのだ。どうせならドント・ブリーズの爺さんやミザリーのキャシー・ベイツみたいに振り切れたキャラクターにすればよかったのに残念。

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