アジョシ

作品鑑定
邦題アジョシ
原題아저씨
公開年2010
製作国韓国
監督イ・ジョンボム
主演ウォンビン

概要

『アジョシ』は、韓国リベンジ映画の中でもかなり完成度の高い一本である。
寡黙で感情を閉ざした男が、顔見知りの少女を奪われたことで再び地獄の側へ戻り、最後には圧倒的な執行者として敵を刈っていく。物語の骨格は比較的シンプルだが、そのシンプルさの中に、胸くその悪い敵、重い喪失感、抑制の効いた主人公、そして終盤の一気呵成の解放がきれいに揃っている。

本作の強さを決定づけているのは、まず敵の外道ぶりである。特にマンソク兄弟の胸糞の悪さは非常に秀逸だ。ただ残虐なだけではない。子どもを完全にモノ扱いし、弱者を搾取の道具としか見ず、自分たちは安全圏にいるつもりで振る舞う。そのくせ、本当に自分たちより圧倒的に強い存在を前にするとビビり散らかし、醜く崩れる。特に兄。この胸くその悪さと小物ぶりが、観客の怒りを最高の燃料へ変えている。

その一方で、主人公テシクは最初から無垢の一般人というわけではない。彼の側にも過去があり、暴力の世界と完全に無縁ではない。しかし、本編の中で奪われるものの重さ、そしてソミとの関係が持つ情の深さが、その事情を上回って観客を引き込む。だから本作は、冷たい男が一人の少女のために修羅へ戻る物語として、非常に強い熱量を持つ。

※採点基準の概要は「リベンジ映画鑑定要領 Ver1.3(概要)」をご覧ください。

1 不条理(被害者の無実性)4/5
2 喪失(奪われたものの重さ)4/5
3 被侮蔑(加害者からの見下し)5/5
4 標的(復讐対象の明確さ)4/5
5 敵の悪(情状酌量の余地)5/5
6 後味(結末のカタルシス)4/5
7 配役(復讐者の説得力)5/5
8 演技(感情の爆発度)4/5
9 演出(執行のスタイリッシュさ)5/5
10 伏線回収(因果応報の納得感)4/5
11 倫理の納得感(観客の同調率)5/5
12 敵の歯ごたえ(難易度と落差)4/5
基礎点合計(1〜12)53/60

基礎点の根拠

各項目講評

1 不条理:4/5

発端にはソミの母親の軽率さや犯罪との接触があるため、完全な隕石直撃型の5ではない。だが、ソミ自身はほぼ完全に巻き込まれであり、テシクもまた静かに生きていたところを無理やり地獄へ引きずり込まれる。標準を明確に超える理不尽さがあるため、4が妥当である。

2 喪失:4/5

家族全滅という形ではないが、テシクにとってソミは亡き妻の後に残された、ほとんど唯一の情の回路として機能している。そのソミを奪われ、しかも途中で死んだと思わされる展開は、体感として非常に重い。5までは行かないが、標準を超える4でよい。

3 被侮蔑:5/5

ここは満点でよい。ただし、状況は少し整理が必要である。敵は当初テシクを「ただの質屋」程度に見て軽く扱う。しかし、最初の接触で返り討ちにあい、只者ではないと早い段階で認識し直す。それでもなお、テシクの執念と到達力を完全には測り切れず、最終的には「処理できるはずの相手」にすぎないという認識の延長で破綻する。単純な舐めっぱなしではないが、見誤りの落差は極めて大きい。

4 標的:4/5

敵は組織全体に広がるが、怒りの照準はかなりはっきりマンソク兄弟を中心とした顔のある悪へ向かっている。単独一個人に完全凝縮する5ではないが、観客の憎しみが散りすぎることもない。十分に高い4である。

5 敵の悪:5/5

ここは満点で問題ない。児童売買、臓器売買、麻薬、拷問、拉致。しかもソミのような子どもを平然と処理対象として扱う。本作の敵は、V1.3の基準でも十分に特級の外道である。とりわけマンソク兄弟の胸くその悪さは、本作の燃料を最大級まで押し上げている。

6 後味:4/5

ソミは生き残り、テシクも最後に人間としての感情を取り戻す。そこには確かな救済と希望がある。ただし、すべてが完全に回復するわけではないし、テシクが無垢な平穏へ戻るとも言い切れない。完全再生の5までは行かないが、3よりは明確に上であり、4が妥当である。

7 配役:5/5

ウォンビンは圧倒的である。寡黙で乾いた前半から、火が入った後の処刑者モードまで、立っているだけで成立する。説明しすぎない存在感が非常に強く、復讐者としての説得力は満点でよい。

8 演技:4/5

本作は泣きの芝居で押す映画ではない。むしろ抑制のなかに怒りと哀しみを滲ませるタイプで、その精度はかなり高い。ただし、感情を大きく噴き上げて観客を震わせる5点型とは少し違う。高水準だが4に置くのが自然である。

9 演出:5/5

ここは非常に強い。序盤の静けさ、中盤の追跡、ラストの単独乗り込み、そしてマンソク兄の射殺まで、溜めから解放までの設計が見事である。特に終盤の緊張の持続と、一気に刈り取っていく爽快感の両立はかなり高水準であり、満点を置ける。

10 伏線回収:4/5

テシクの過去、異常な戦闘能力、警察との関係、ソミとの絆など、前半に置かれた要素は終盤できちんと効いてくる。ただし、構造的なパズルの気持ちよさが最大級というよりは、感情と推進力で引っ張るタイプである。完成度は高いが、5ではなく4が妥当である。

11 倫理の納得感:5/5

ここは満点でよい。この映画の場合、「完全なる悪を無双しすぎるから少し引っかかる」という理屈は当てはまらない。相手はほぼ満場一致で純度の高い敵であり、テシクの目的も私欲はなくソミの奪還のみである。終盤の殺しも無関係な人間へ拡散するのではなく、敵側へ集中している。観客は最初から最後まで高純度でテシク側に乗ることができる。したがって5が妥当である。

12 敵の歯ごたえ:4/5

敵は外道なだけではなく、組織力、資源、人員を持っている。終盤には単なる雑魚ではない危険な相手も配置されている。しかも数の面でも簡単ではなく、テシクにとっては十分に障害強度が高い。5点級の絶望的な壁とまでは言わないが、標準を超える4でよい。

最終鑑定点:265/300(基礎点合計×執行精度)

格付け:A級(特級)

『アジョシ』は、非常に強い。
高得点の理由は明快である。マンソク兄弟を中心とした敵の胸くその悪さがまず極めて優秀で、そのうえでウォンビンの存在感、終盤の演出、執行精度がきれいに揃っている。特にV1.3では、単に強いだけではなく、「止まらないこと」「逃れられないと相手に思わせること」が重要になるが、その点で本作はかなり理想形に近い。

一方で、完全不条理の5ではないこと、後味も完全再生の5ではないことから、少しだけ抑えが入る。それでもなおA級まで届くのは、それ以外の項目が非常に強いからである。

265点、A級。特級。

『アジョシ』は、敵の胸くその悪さを最高の燃料に変え、それを圧倒的な執行で回収する。韓国リベンジ映画の強さが非常に分かりやすく詰まった一本であり、このジャンルの代表格として十分にふさわしい。

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