作品情報
| 邦題 | ペイバック |
| 原題 | Payback |
| 公開年 | 1999 |
| 製作国 | アメリカ |
| 監督 | ブライアン・ヘルゲランド |
| 主演 | メル・ギブソン |
概要
善人が理不尽な被害を受け、正義の名のもとに復讐を果たす映画ではない。犯罪の取り分をめぐって裏切られた男が、自分の七万ドルを取り戻すために動き続ける映画だ。この時点で、当鑑定所の定規では満点方向に伸びにくい項目がいくつか出る。その一方で、目的の一点集中、主人公の顔、段取りの良さ、執行の完遂度はかなり高い。
ポーターの目的は最初から最後まで一つしかない。ヴァルを殺すことでも、リンに報いを受けさせることでも、組織を潰すことでもない。自分の七万ドルを取り戻すことだけだ。請求先は途中で何度も変わる。ヴァルからカーターへ、カーターからフェアファックスへ。それでも目的そのものは一歩も動かない。人物ではなく目的が標的になっている映画である。
発端の裏切りは重い。リンはポーターを撃ち、死んだものとして放置する。ただし失われるのは平穏な生活でも家族でもない。もともと犯罪の取り分だ。不条理も喪失もゼロではないが、王道の被害者型リベンジ映画ほどには上がらない。ここを美化しないほうが、この作品の輪郭ははっきりする。
敵の悪も同じである。ヴァルの裏切りとリンの銃撃は十分に悪質だが、その後に立ちはだかる組織はポーターから直接七万ドルを奪った張本人ではない。ヴァルが流した金を握っている組織にすぎない。腐敗警官も胸糞は悪いが、特級の外道を討つ話とは違う。敵の邪悪さで引っ張る映画ではないのだ。
そのかわり、見せ場の運びと回収のうまさがいい。冒頭でポーターはただタフな男ではなく、すりの技術を持った男として示される。この技能が後半で悪徳警官をはめる決定打になる。バッジを盗み、銃に指紋をつけさせ、ヴァルの死体と結びつけて殺害容疑を向ける流れは見事だ。電話爆弾も同じである。敵が先にその手口でポーターを消そうとしたものを、終盤でそのまま返して決着に使う。前半の技能と前半の加害、その両方が後半の制裁に組み込まれている。この映画の気持ちよさは偶然の連続ではなく、きちんと置いたものを返す設計から生まれている。
演出も冴えている。陰惨さに沈みすぎず、乾いた笑いと暴力の切れ味を両立させる。電話爆弾、拷問からの反転、最後の決着まで、場面ごとの山の作り方がうまい。ポーターが痛めつけられても映画そのものは鈍らない。終始、前へ進む力が保たれている。
メル・ギブソンの配役も大きい。正義漢ではないが舐めてかかった相手があとで痛い目を見る男だと一目でわかる。ポーターを知る人は誰もが敵にしたくないと思う男なのだ。大仰に怒りを見せるのではなく、乾いた口調と平然とした態度のまま執念だけを前へ出す。この抑えた演技がポーターという人物の異様さに合っている。
倫理の納得感は中間点に留まる。観客はポーターに肩入れしやすい。相手のほうが腐っているからだ。しかし取り戻そうとしているのは盗んだ金の取り分である。リンがポーターを撃ったのももとはと言えばポーターが浮気したからだ。聖なる権利回復ではない。この線引きは必要だ。ここを高くしすぎると、この映画のひねくれた味が消える。
後味は良い。ポーターは金を手にし、ロージーと犬と共に街を離れる。勝ったが何も残らない話ではない。破滅にも虚無にも落ちない。汚れた世界の話でありながら、終着点にはきちんと先がある。そこははっきり評価してよい。
鑑定報告(Ver 1.3基準)
※採点基準の概要は「リベンジ映画鑑定要領 Ver1.3(概要)」をご覧ください。
| 1 不条理(被害者の無実性) | 3/5 |
| 2 喪失(奪われたものの重さ) | 3/5 |
| 3 被侮蔑(加害者からの見下し) | 5/5 |
| 4 標的(復讐対象の明確さ) | 5/5 |
| 5 敵の悪(情状酌量の余地) | 3/5 |
| 6 後味(結末のカタルシス) | 5/5 |
| 7 配役(復讐者の説得力) | 5/5 |
| 8 演技(感情の爆発度) | 5/5 |
| 9 演出(執行のスタイリッシュさ) | 5/5 |
| 10 伏線回収(因果応報の納得感) | 5/5 |
| 11 倫理の納得感(観客の同調率) | 3/5 |
| 12 敵の歯ごたえ(難易度と落差) | 3/5 |
| 基礎点合計(1〜12) | 50/60 |
基礎点の根拠
1 不条理:3/5
ポーターは堅気ではなく、発端も強盗した金の取り分だ。ただし、リンとヴァルに裏切られ撃たれてしかも放置されるという仕打ちは軽くない。標準点が妥当である。
2 喪失:3/5
家族惨殺のような壊滅的損失ではない。だが七万ドルを失っただけでもない。半殺しにされ、リンとヴァルに裏切られ、ポーターにとっての喪失は複合的だ。
3 被侮蔑:5/5
ヴァルも組織も、ポーターを終わった男として扱う。組織も七万ドルに執着する男として笑う。その見下しが逆襲の快感を押し上げている。
4 標的:5/5
要領の文言どおりに読めば、5点は「特定の一個人の顔に凝縮した報復対象」に与える点だ。本作はそこから少しずれる。ポーターが追っているのは特定個人ではなく、七万ドルの返済責任そのものだからである。ただし責任の線は最初から最後まで一点に固定されており、請求先がヴァル、カーター、フェアファックスへと変わっても目的は一歩もぶれない。人物ではなく目的が標的へ変質した型として見れば、焦点の鋭さは満点でよい。
5 敵の悪:3/5
ヴァルの裏切りと銃撃は悪質だ。腐敗警官もアウトフィットも悪党である。ただ、特級の外道を討つ映画ではない。悪の質はジャンル標準に留まる。
6 後味:5/5
ポーターは生き残り、ロージーと犬と共に街を離れる。破滅でも虚無でもない。希望が残る終わり方だ。
7 配役:5/5
メル・ギブソンの顔が決定的に合っている。善人面ではない。だが、軽く扱った相手が痛い目を見る男だと一目でわかる。画面に立った瞬間に役が決まる。
8 演技:5/5
大仰に悲劇を背負わないのがよい。乾いた口調と平然とした態度のまま執念だけを前へ出す。その抑えた芝居がポーターの異様さをよく伝える。平気でポーターを裏切るヴァルの良心の呵責がまるで欠けている感じもよく伝わる。
9 演出:5/5
場面の運びがうまい。電話爆弾、拷問からの反転、終盤の畳みかけまで、溜めと返しがきちんと効いている。乾いた笑いと暴力の切れ味が最後まで崩れない。
10 伏線回収:5/5
冒頭のすりの技術が、後半で悪徳警官をはめる決定打になる。バッジを盗み、銃に指紋をつけさせ、ヴァルの死体と結びつける流れは見事だ。電話爆弾も、敵が先に使った手口を終盤でそのまま返す。前半の技能と加害の形式が、後半の制裁へきれいにつながっている。
11 倫理の納得感:3/5
妻に裏切られて半殺しにされたポーターに同情する。ただし取り戻そうとしているのは盗んだ金の取り分だ。正当防衛でも無垢の権利回復でもない。中間点が妥当である。
12 敵の歯ごたえ:3/5
相手は組織だが絶望的な強敵ではない。ヴァルもアウトフィットもポーターの手際に順に崩されていく。個々の硬さより、請求先が次々に変わる構造のほうがこの映画の特徴だ。
13 執行精度(倍率): ×5
完璧である。ポーターは最初から最後まで自分の意思で七万ドルを追い続ける。爆弾を仕掛けられたら爆死させる、撃たれても、指を潰されても止まらない。代理執行にも逃げない。相手に「こいつからは逃げ切れない」と思わせた時点で、5倍が妥当だ。
最終鑑定点:250/300(基礎点合計×執行精度)
格付け:B級(良作)
総評
被害の重さや敵の外道ぶりで押す映画ではない。七万ドルという小さな目的を、異様な執念と手際で回収していく映画だ。だから燃料や倫理では伸び切らない。そのかわり、目的の一点集中、メル・ギブソンの顔、乾いた演技、演出の切れ、伏線回収、執行の完遂度が高い水準でそろっている。
250点、B級。悲劇の大きさではなく、回収の気持ちよさでここまで上がってくる良作だ。「何を取り戻すか」が大きい映画ではない。しかし「どう取り戻すか」が抜群に気持ちいい。そこに価値がある。
雑記
たかが7万ドルというが、この男なら3万ドルでも1万ドルでも同じことをすると思う。


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