プロミシング・ヤング・ウーマン

アメリカ
邦題プロミシング・ヤング・ウーマン
原題Promising Young Woman
公開年2020
製作国アメリカ
監督エメラルド・フェネル
主演キャリー・マリガン

概要

復讐映画としては変則的な作品だ。燃料は極めて強く、標的も明確で、伏線回収も見事である。にもかかわらず、執行カタルシス型としては突き抜け切らない。そこがこの映画の面白さであり、同時に点数が伸び切らない理由でもある。

出発点の不条理は大きい。ニーナは性的加害によって人生を壊され、その事実は周囲によって軽く扱われ、忘れられていく。キャシーは親友を失っただけではない。ニーナに寄り添うために、子供の頃からの夢だった医者への道まで手放し、自分自身の人生もそこで止めてしまう。本作の喪失は友情の喪失にとどまらず、自己の将来と自己像の崩壊まで含んでいる。

本作の標的は明確にアルだ。キャシーは途中でマディソン、学部長、弁護士にも接触するが、それはニーナを踏みにじった側の責任を突きつけるための行動である。一方、ライアンは性質が異なる。彼は一度はキャシーが希望を見た相手だが、後に事件当夜の傍観者だったことが判明し、最後の希望を壊す存在になる。最終的にキャシーが奪おうとしているのは、アルの逃げ切りと、何事もなかったように結婚して幸せになる未来だ。怒りの矛先は最後までぶれず、標的は一つの顔に凝縮している。

終盤、キャシーはアルを拘束し、ニーナの名前をその身体に刻もうとするが返り討ちに遭い、キャシーは殺されてしまう。しかしこの映画はここからである。キャシーはあらかじめ証拠となる動画や手紙を弁護士に送り、ライアンには予約送信メッセージを仕込み、自分が消された場合でもアルと共犯者たちが逃れられないようにしている。結婚式当日、晴れの舞台の真ん中で警察が踏み込み、アルは逮捕される。この反転の設計は鮮やかで、復讐の演出として強い。しかし、達成感と空虚さが同居し、単純な執行カタルシス型リベンジ映画とは違う結末だ。

※採点基準の概要は「リベンジ映画鑑定要領 Ver1.3(概要)」をご覧ください。

1 不条理(被害者の無実性)5/5
2 喪失(奪われたものの重さ)5/5
3 被侮蔑(加害者からの見下し)5/5
4 標的(復讐対象の明確さ)5/5
5 敵の悪(情状酌量の余地)5/5
6 後味(結末のカタルシス)3/5
7 配役(復讐者の説得力)5/5
8 演技(感情の爆発度)5/5
9 演出(執行のスタイリッシュさ)5/5
10 伏線回収(因果応報の納得感)5/5
11 倫理の納得感(観客の同調率)5/5
12 敵の歯ごたえ(難易度と落差)4/5
基礎点合計(1〜12)57/60

基礎点の根拠

1 不条理:5/5
ニーナは性的加害によって人生を壊され、弁護士や学校も事態を重く見ない。発端の理不尽さは最大級だ。

2 喪失:5/5
キャシーが失ったのは親友だけではない。ニーナに寄り添うため、医者になるはずだった自分の人生まで手放している。将来と自己像の破壊まで含めれば、喪失は壊滅的だ。

3 被侮蔑:5/5
踏みにじられるのはニーナだけではない。自身の欲望を満たす相手としか考えていない男たちの前提そのものが最大の侮辱だ。質は極めて悪い。

4 標的:5/5
加害者周辺人物への接触はあるが、最終標的は明確にアルだ。キャシーが最後に奪おうとしているのは、アルの幸福と逃げ切りそのものである。怒りは十分に一つの顔へ凝縮している。

5 敵の悪:5/5
性的加害そのものに加え、撮影、傍観、隠蔽、忘却、欺瞞、保身、自己正当化まで重なる。単独犯ではなく、周囲を巻き込んだ加害構造としても悪質だ。

6 後味:3/5
キャシーは殺されるが復讐は果たした。だが、アルは逮捕されても、ニーナもキャシーも戻らない。救いはあるが、再生ではない。

7 配役:5/5
キャリー・マリガンは、この映画の復讐の質にぴたりとはまっている。知性的で意志が強く、しかも冷酷な怪物には見えない。小柄さ、か弱さ、優しさのにじみと、絶対に目的を果たす執念が同居している。

8 演技:5/5
キャシーの痛み、怒り、空虚さがよく伝わる。関係者たちがキャシーから面と向かって良心を問われたときのそれぞれの反応もまた良い燃料になっている。

9 演出:5/5
ポップな色調と音楽で観客を油断させながら、嫌な真実へ連れていく設計がうまい。とりわけ結婚式の最中に警察が踏み込み、アルの人生最高の晴れ舞台から一転して地獄へ落とすラストのカタルシスは強い。これ以上のタイミングはないという場面で亡きキャシーの制裁が執行される。

10 伏線回収:5/5
ライアンとの再開、動画の入手、ライアンの加担、弁護士宛ての封筒、予約送信メッセージまで、終盤の逆転は非常によく仕込まれている。まさに因果応報というべき制裁だ。

11 倫理の納得感:5/5
キャシーが裁こうとしているのは、ニーナを踏みにじった本人と、その加害を支えた側だ。しかも相手を刺したり、性的暴力を加えたりはしない。マディソンや学部長にも、自分たちの罪を思い出させて反省を促すにとどめている。制裁には強い計算と抑制があり、観客が最後まで同調しやすい。

12 敵の歯ごたえ:4/5
キャシーが戦っているのは、普通の良い人たちによる「加害の構造」だ。男の結束、記憶の改ざん、「あの子も悪かった」という言い訳、大学側の隠蔽、弁護士の圧力、そして「若気の至り」という空気と戦ったのだ。

最終鑑定点:171/300(基礎点合計×執行精度)

格付け:C級(佳作)

燃料、標的の明確さ、演出、伏線回収は非常に高い水準にある。直接執行こそ失敗するものの、アルは結婚式の最中に逮捕される。それでも執行カタルシス型としては特級や良作の上位までは届かないのは、キャシーのもっとも望んだ形で決着していないからだ。自分の命を賭けて相手を破滅へ引きずり込む設計は感動的だが、爽快な結末ではない。

雑記

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