作品情報
| 邦題 | ジャンゴ 繋がれざる者 |
| 原題 | Django Unchained |
| 公開年 | 2012 |
| 製作国 | アメリカ |
| 監督 | クエンティン・タランティーノ |
| 主演 | ジェイミー・フォックス、クリストフ・ヴァルツ |
概要
『ジャンゴ 繋がれざる者』は、奪還劇と復讐劇が高い水準で結びついた作品である。ジャンゴの目的は明確である。最終的には妻ブルームヒルダを取り戻すこと。その障害として立つのが、キャンディランドを支配するカルヴィン・キャンディと、彼を支える奴隷頭のスティーブン、そして他キャンディに仕える連中である。
本作で注意すべきなのは、奴隷制という制度暴力をどう採点するかである。黒人奴隷制は現代倫理から見れば論外だが、物語世界の内部ではそれが社会の前提でもある。したがって、不条理、被侮蔑、敵の悪、倫理の納得感を、現代感覚だけで機械的に満点を与えると雑になる。一方で、時代背景を理由に薄めすぎてもいけない。本作では、売買による夫婦の離別、鞭打ち、見世物化、性的支配、私兵による威圧が具体的に描かれる。制度悪と個別の加害を分けて見る必要がある。
そのうえで本作の点数が高く出るのは、燃料を最後まで失速させないからである。シュルツは賞金稼ぎとしての技術だけでなく、口で場を支配する術もジャンゴに叩き込む。前半で見せたその能力は、終盤の移送場面でジャンゴ自身の生還に効く。妻の奪還は一度崩れるが、そこで終わらない。ジャンゴは戻ってきて、自分の手で妻を確保し、黒人奴隷は解放し、最後スティーブンを撃って屋敷を爆破しとどめを刺す。ここまでやれば、決着は十分に本人のものだと受け取れる。
もっとも、何もかも満点で押し切れる作品でもない。カルヴィン本人の最期はシュルツの手であり、ジャンゴは目的達成のために他の黒人奴隷の犠牲を黙認する場面もある。また、豪華な顔ぶれ全体の迫力は抜群だが、項目7で見るのは復讐遂行者としてのジャンゴ本人の顔の説得力である。その意味で、聖典級の満点を並べるより、一段ずつ冷静に落としたほうが本作の位置は正確に出る。
鑑定報告(Ver 1.4基準)
※採点基準の概要は「リベンジ映画鑑定要領(概要)」をご覧ください。
| 1 不条理(過失相殺) | 4/5 |
| 2 喪失(損害規模) | 4/5 |
| 3 被侮蔑(ナメられ) | 4/5 |
| 4 報復対象(安定性) | 5/5 |
| 5 敵の悪(邪悪性) | 4/5 |
| 6 後味(生存希望) | 5/5 |
| 7 配役(適正顔) | 4/5 |
| 8 演技(感情伝達) | 5/5 |
| 9 演出(爆発の美学) | 5/5 |
| 10 伏線回収(因果応報の設計) | 4/5 |
| 11 倫理の納得感(観客同調) | 4/5 |
| 12 敵の歯ごたえ(障害強度) | 4/5 |
| 基礎点合計(1〜12) | 52/60 |
基礎点の根拠
1 不条理:4/5
ジャンゴとブルームヒルダに落ち度はない。夫婦を引き離されるだけでなく、鞭打ちを含む暴力で支配され、人間として扱われない状況に置かれている。被害は制度化された抑圧の内部で起きているため、5点の「平穏な日常への突発侵害」とは少し違うが、標準の3点を明確に超えるため4点とする。
2 喪失:4/5
妻ブルームヒルダは死んでいないため、5点は重い。ただし、ジャンゴが奪われたのは妻だけではない。自由、尊厳、夫婦として生きる条件そのものが剥奪されている。3点では軽く、4点が妥当である。
3 被侮蔑:4/5
黒人を所有物として扱う制度そのものが侮蔑の土台になっている。本作でもジャンゴとブルームヒルダは売買の対象であり、人間扱いされない。ただし、特定個人への執拗な人格破壊を一点集中で積む型ではないため、5点ではなく4点にとどめる。
4 報復対象:5/5
この映画の軸は明快である。ジャンゴの目的は妻ブルームヒルダの奪還であり、その障害として立つキャンディランド側に報いる話である。相手の顔は複数でも、倒すべき相手は最後までぶれない。
5 敵の悪:4/5
キャンディもスティーブンも、奴隷制の残酷さを当然の前提として動いている。そこに見世物化、私刑、性的支配、侮辱が重なるため悪質さは高い。ただし、制度悪と個人悪が重なった型であるため、特級邪悪の5点を即置きするより4点とする。
6 後味:5/5
ジャンゴはブルームヒルダを取り戻し、生きてその場を去る。シュルツの死は痛いが、主人公側には自由と未来が残る。後味は極めて良い。
7 配役:4/5
ジェイミー・フォックスのジャンゴには十分な説得力がある。ただ、項目7で見るのは豪華キャスト全体ではなく、復讐遂行者としての顔の説得力である。その基準では4点が妥当である。
8 演技:5/5
フォックスの抑えた怒り、ヴァルツの軽やかな知性、ディカプリオの下劣な余裕、ジャクソンのねじれた忠誠がそれぞれ強く効いている。主要人物の感情と力関係が明瞭で、観客を置いていかない。
9 演出:5/5
賞金稼ぎ西部劇としての軽快さ、夕食場面の緊張、シュルツの発砲による反転、帰還後の屋敷爆破まで、見せ場の設計が鮮やかである。復讐の解放感を大きく爆発させている。
10 伏線回収:4/5
本作は伏線回収そのものの快感で押す映画ではない。ただし、シュルツの口のうまさと場の支配術をジャンゴが学び、終盤の移送場面で自分の生還に使う流れはきちんと効いている。3点より一段上の4点が妥当である。
11 倫理の納得感:4/5
ジャンゴの目的は妻の奪還であり、観客は概ね正面から肩入れできる。ただし、目的達成のために他の黒人奴隷の犠牲を黙認する場面があり、そこは満点を外す。強い同調は保てるが、迷いなく5点とは言いにくい。
12 敵の歯ごたえ:4/5
カルヴィンは財力と私兵を持ち、スティーブンは屋敷の内側から状況を読む。簡単な相手ではない。ただし、超人的な硬さや完全無欠の警戒網まで備えた敵ではないため、4点にとどめる。
13 決着成立度(倍率): ×5
カルヴィン本人を撃つのはシュルツである。ただ、ジャンゴの決着はそこで終わらない。拘束から脱して屋敷に戻り、自らの手で妻ブルームヒルダを確保、激しい銃撃戦のあと、最後にスティーブンを屋敷ごと爆破する。ジャンゴは作中、奴隷頭スティーブンを黒人奴隷商人に等しい邪悪と断じ、カルヴィン以上に許せない相手と見なしている。その相手まで最後に自分の手で葬っている以上、報いはジャンゴ自身の意思と行為によって理想的な形で完遂している。
最終鑑定点:260/300(基礎点合計×決着成立度)
格付け:A級(特級)
総評
『ジャンゴ 繋がれざる者』は、奪還劇と復讐劇を高い水準で両立させた一本である。燃料は重い。報復対象も明確である。しかも後半は、その燃料をきちんと執行カタルシスへつなげる。だから本作は、リベンジ映画鑑定所の定規に素直に乗る。一方で、制度暴力を背景にした作品である以上、不条理、侮蔑、敵の悪、倫理を現代感覚だけで高得点をつけるのは厳しい。だが、報復対象の明確さ、本人決着の強さ、後味の良さは申し分ない。


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