作品情報
| 邦題 | モンテ・クリスト伯 |
| 原題 | Le Comte de Monte-Cristo |
| 公開年 | 2024 |
| 製作国 | フランス |
| 監督 | マチュー・デラポルト、アレクサンドル・ド・ラ・パトリエール |
| 主演 | ピエール・ニネ |
概要
船員エドモンは三人の男に陥れられてメルセデスとの結婚式当日に身に覚えのない罪で逮捕され、監獄に14年間収監される。陥れたのは、ダンテスの船長昇格を妬んだダングラール、エドモンの婚約者メルセデスを奪うために共謀したフェルナン、無実と知りながら愛人問題と妹アンジェルの存在を隠すため投獄を選んだヴィルフォール検事である。
監獄でダンテスはテンプル騎士団の末裔だというファリア神父と出会い、語学と教養を授けられ、テンプル騎士団の財宝の在りかを聞かされる。ファリアの死をきっかけに脱獄したダンテスは海を泳いでマルセイユに戻ってみると父は既に死亡しており、婚約者のメルセデスは案の定フェルナンと結婚し、出産してパリへ移っていた。
ファリア神父の言葉通りモンテ・クリスト島でテンプル騎士団の財宝を発見したエドモンは、5年をかけて粛々と復讐の準備をする。協力者は二人。アンドレはヴィルフォールが生き埋めにしようとした隠し子で、アンジェルが救って育てた青年。エデはフェルナンに父アリ・パシャを殺され奴隷として売られた女性である。莫大な財力を得たエドモンはモンテクリスト伯と名乗る貴族として社交界デビューし、自分を陥れた3人に対する復讐の機会を伺う。
鑑定報告(Ver 1.4基準)
※採点基準の概要は「リベンジ映画鑑定要領(概要)」をご覧ください。
| 1 不条理(過失相殺) | 5/5 |
| 2 喪失(損害規模) | 5/5 |
| 3 被侮蔑(ナメられ) | 5/5 |
| 4 報復対象(安定性) | 5/5 |
| 5 敵の悪(邪悪性) | 5/5 |
| 6 後味(生存希望) | 4/5 |
| 7 配役(適正顔) | 4/5 |
| 8 演技(感情伝達) | 4/5 |
| 9 演出(爆発の美学) | 4/5 |
| 10 伏線回収(因果応報の設計) | 5/5 |
| 11 倫理の納得感(観客同調) | 4/5 |
| 12 敵の歯ごたえ(障害強度) | 4/5 |
| 基礎点合計(1〜12) | 54/60 |
基礎点の根拠
1 不条理:5/5
エドモンは、海でアンジェルを救ったことで政治的な疑いに巻き込まれる。王政復古期のフランスでは、ナポレオンに関わる手紙は危険物である。だが、エドモンは海で溺れているアンジェルを使命感で助けただけであり、結婚式の最中に身に覚えのない罪で逮捕されて投獄される理由は無い。
2 喪失:5/5
エドモンは、結婚式の最中に逮捕され全てを失う。14年後に脱獄して故郷に戻ったが既に父親は死亡しており、婚約者のメルセデスはフェルナンと共に既に別の家庭を築いていた。
3 被侮蔑:5/5
ダングラールは船主の怒りを買い解雇されたその逆恨みでエドモンを陥れ、敢えて結婚式の最中に逮捕させて甚大なダメージを与える。検事のヴィルフォールは自身のスキャンダルを封印し、地位を守るためにエドモンを切り捨てる。フェルナンは、モルセール家と深く関わっていたエドモンがメルセデスと結婚しようとする状況を受け入れない。三人は、それぞれの欲と保身でエドモンの人生を潰す。
4 報復対象:5/5
報復対象は、逆恨みから事件を画策したダングラール。エデの父親を殺し、メルセデスを横取りするためにエドモンを救わない選択をしたフェルナン。愛人が産んだばかりのアンドレを生き埋めにしようとし、妹でアンドレを救ったアンジェルを廃人にし、エドモンは無罪と知りつつ立件したヴィルフォールの三人だ。
5 敵の悪:5/5
ダングラール(逆恨みと金の男)は、船主の信用を失い、解雇された逆恨みからエドモンとメルセデスの結婚式の最中にエドモンを逮捕させるというきっかけを作った。船長に復帰後は自分を一度解雇した船主を陥れ大金を得て資産を築く。アンジェルを娼館に売り飛ばした当事者でもある。軍人のフェルナン(裏切りと嫉妬と名誉欲の男)は、メルセデスへの執着からエドモンを陥れ、何も知らないメルセデスと家庭を築き、後年にはエデの父親であり、ジャニナ地方の太守であったアリ・テベリンを守る側の士官でありながらも金のために裏切って殺し、その金を使って正式に上流階級入りを果たす。検事のヴィルフォール(保身と隠蔽の男)は法を扱う立場でありながら、愛人や隠し子の問題を隠蔽し、自分の地位を守るために妹のアンジェルにタメージを加え、しかもアンジェルと接点があるエドモンを牢獄へ送る。
6 後味:4/5
エドモンはメルセデスに別れを告げ、船で旅に出る。エデはアルベールと結ばれ故郷を離れ、親のしがらみのない土地を目指す。だが、アンドレは父親のヴィルフォールを刺したあと撃たれて死んでしまう。復讐の完了による新たなスタートにアンドレの悲劇が影を落とすが、アンドレ自身の復讐は成し遂げられており、概ね希望が持てるエンディングだ。
7 配役:4/5
役者に対する先入観がほとんど無いということもあるが、ピエール・ニネのダンテスを始め、メルセデスのアナイス・ドゥムスティエ、フェルナンのバスティアン・ブイヨン、ヴィルフォールのローラン・ラフィット、いずれも違和感はない。特に印象に残るのはエデを演じたアナマリア・ヴァルトロメイ。
8 演技:4/5
全体としては高水準だが、特に印象に残るのは、エデの三つの場面。アンドレの死後にエデが見せる動揺、アンドレの墓前でエドモンを拒否するシーン、そして決闘から戻ったダンテスにエデが詰め寄る場面。本作で復讐者の代理として最も感情を露わにするのはエデで、彼女の場面の演出が作品の感情の高まりを支えている。エドモンの心を動かすきっかけもエデが作る。対して、ラストの教会でメルセデスがダンテスからの最後の手紙を読む場面の演技は微妙。本作の最後を締める重要な場面で、ドゥムスティエの表情と感情の表出が、観客を震わせるレベルには届かなかった。
9 演出:4/5
検事ヴィルフォールがアンドレに刺される場面、エドモンとフェルナンとの決闘、いずれも見せ場として成立する。脱獄場面は、ファリア神父の死体と入れ替わって引き上げられ海に投げ込まれるという、原作デュマの有名な場面を本作も忠実に映像化している。財宝発見の場面のあっさり感は意図的なものだろう。ただ、ダングラールが大損して借金の支払い期限延長をお願いするもエドモンに拒否されるシーン前後は物足りなさを感じる。
10 伏線回収:5/5
本作の伏線回収の核心は、三人の悪人の罪がそれぞれの形で自分に返ってくる構造にある。金の亡者ダングラールは逆恨みでエドモンを陥れた末、自身が一文無しになる。検事ヴィルフォールは隠し子を生き埋めにしようとした罪が、その捨てた息子の手で殺される結末になる。フェルナンはメルセデス欲しさにダンテスを見捨て、さらにアリ・パシャを裏切って得た金で名誉を買い、その名誉を全て失ったまま殺されずに生かされる。三人それぞれの罪の形と、その報いの形が、的確に対応している。
11 倫理の納得感:4/5
三人が罰を受ける理由に違和感はない。ダングラール、フェルナン、ヴィルフォールはいずれもエドモンの人生を壊して生き延びてきた。報復の筋は通っている。ただし、アンドレがヴィルフォールを刺した後に撃たれて死んでしまったことはエドモンの責任と切り離せない。
12 敵の歯ごたえ:4/5
三人は腕力で立ちはだかる敵ではない。ダングラールは金融、フェルナンは軍歴と家名、ヴィルフォールは法の地位を持つ。エドモンは財宝、変名、変装、情報、社交界の信用を使って、その地位を崩す。勝利には緻密な計画と時間と運も必要だ。
13 決着成立度(倍率): ×4.5
三人への報いは、それぞれの急所を突いている。ダングラールは金と信用を失う。フェルナンは殺されず、名誉、妻、息子からの信頼を失う。死ねば世間に偉人扱いされ、罪まで許されるため、エドモンはとどめを刺さない。ヴィルフォールは、自分が消そうとした息子に殺される。エドモンは財力と知力で三人に近づき、確実に復讐を果たす。ただし、アンドレの死にエドモンの責任は免れないことと、最終的に生かすという復讐が執行カタルシス型リベンジ映画にはまりにくいことから理想的な決着とはならず。
最終鑑定点:243/300(基礎点合計×決着成立度)
格付け:B級(良作)
総評
『モンテ・クリスト伯』は社会的・経済的・心理的な破滅を復讐の手段にした作品である。エドモンは三人を順番に殺しに戻るのではない。ダングラールには金と信用を失わせ、フェルナンには名誉と家族からの信頼を失わせ、ヴィルフォールには生き埋めにして消そうとした息子アンドレが立ち向かう。三人の罪と、三人がその後に築いた人生が報復の内容に置き換わる変わる。
本作のリベンジ映画としての力は、燃料と敵の位置にある。エドモンは結婚式の日に逮捕され、14年をシャトー・ディフ監獄で失う。父も失い、メルセデスとの未来も奪われる。しかも、陥れた三人はその後に社会の上へ行く。ダングラールは船会社のオーナー、フェルナンは軍人経由の議員、ヴィルフォールは検事だ。エドモンは準備に5年をかけてから、満を持して三人の前に現れる。
執行カタルシス型として見ると、本作はかなり特殊である。通常、この型では標的を殺さない復讐は点を取りにくい。ダングラールもフェルナンも生きて終わるからである。だが本作では、二人が生き残っても元の場所へは戻れない。金で生きてきたダングラールは金を失う。名誉で生きてきたフェルナンは裏切りを暴かれ、メルセデスとアルベールからも離れられる。とくにフェルナンは死を求めるが、エドモンは殺さない。死ねば世間は彼を名誉の死と見なし、罪を無かったことにする可能性がある。だからエドモンは、フェルナンを生かす。これは許しではなく、死で逃がさないための罰である。
ヴィルフォールだけは一度は生き埋めにした息子アンドレから刺されて死亡するが、アンドレもその場で撃たれて死ぬ。エデは墓前で、アンドレに憎しみを教え、短剣を持たせたのはエドモンだと責める。この指摘は重い。エドモンが自分の行為を正義だと考えていても、アンドレの死を切り離すことはできない。フェルナンの息子アルベールにも父親の罪を負わせようとするが、メルセデスの罪のないアルベールは助けてくれというこの言葉でエドモンはアルベールに対する復讐を思いとどまる。
だが、三人に対するエドモンの復讐は十分に達成された。ダングラールは金を失い、フェルナンは名誉と家族を失い、ヴィルフォールは殺そうとした息子に殺される。復讐映画としての因果は太い。だが、アンドレの死が単純な執行カタルシスでは終わらせない。殺さない復讐を、社会的・経済的・心理的な破滅として成立させた作品である。敵を処刑して終わる型ではないが、三人への罰はそれぞれ罪に見合ったものとして納得のいくものだ。執行カタルシス型としては異色だが、復讐映画として十分に見応えがある。
雑記
復讐映画の代名詞、真打ち登場だ。この映画は細かい内容を把握しないでさらっと観てしまうと悪人3名の燃料が積み上がらないのだが、この3人がどれほどクソ野郎なのか、足りない部分は妄想しながら、彼らの行いや表情を詳細に追うことで燃料が積み上がる。
特にクソ野郎なのがフェルナンだ。善人面するやつが一番たちが悪い。冒頭はいい奴風だ。エドモンとメルセデスが実は出来ていたと言うショックを隠しきれずに微妙な表情をしているが、何とか自分の感情を押し殺して二人を祝福する。エドモンが逮捕された直後はあわてて検事のところに出向いてエドモンの無実を訴えるが、ここまではいいヤツ風なのだが、検事に脅されて怯んで無実の訴えをあっさり撤回する。モルセールという家柄を汚されたくないという理由だ。ていうか、お前なんかなんちゃって貴族なのがコンプレックスのクソ野郎じゃねえかと。ただメルセデスとエドモンが知らぬ間に出来てたのが気にくわねえだけじゃねえかと。過去は知らんが、この件で一線を越えたんだろう。まんまとメルセデスと結婚して子供を作り、後にエデの父親であるアリ・テベリンの敵でもあるオスマン帝国と手を組んでアリ・テベリンを殺害、フェルナンはオスマン帝国から金品を受け取りフランス上流階級へのパスポート買うわけだ。良かったな、裏切りの報酬として得た金で正式に上流階級入り出来て。せいぜい成り上がり者と馬鹿にされて苦しむがいい。と、勝手に妄想を膨らませながらこの映画を観てるとだんだんムカムカしてくる。それが良い。逆恨み野郎のダングラールも保身検事のヴィルフォールも同様だが、こいつらの行いは極悪だが、そもそも善人面することを放棄しているだけまだましだ。つまり、細かく見れば見るほどムカムカして良い映画だ。ダングラールとフェルナンのその後の落ちぶれた姿をジャッキー・チェンの映画みたいにエンドロールで見せればもっと良くなったのに。うそです。あとこの映画はサントラがすごく映画の内容に合っていると思う。音は大事だからね。

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