クロウ/飛翔伝説(1994年アメリカ)

邦題クロウ/飛翔伝説
原題The Crow
公開年1994
製作国アメリカ
監督アレックス・プロヤス
主演ブランドン・リー

概要

『クロウ/飛翔伝説』は、婚約者のシェリーもろとも結婚式の前日に殺されたエリックが一年後にクロウの力により墓場から蘇り、犯人を一人ずつ始末していく映画だ。標的は明確で、動機もぶれない。ゴシック様式の美術と雨の演出が前に出るが、基本的なストーリーは古典的なリベンジ映画の型に忠実だ。加害側は直接手を下したのはTバード、ティン・ティン、ファンボーイ、スカンクの四人組だが、襲撃を指示したのは組織のボスであるトップダラーである。蘇ったエリックは四人を順に片づけ、最後にトップダラーを始末する。決まり手は相手ごとに違う。ナイフ使いのティン・ティンはナイフで刺殺。ファンボーイは大量のモルヒネを投与。Tバードは車ごと爆破。スカンクは高所から落下。そして、最後のトップダラーには、婚約者のシェリーが運ばれた病院で味わった三十時間の苦しみを与えて始末する。この「三十時間の苦痛の転移」が本作の中心にある。

犯人達は殺人、放火、略奪、破壊などを常習的に行う一方、胸クソの悪さを時系列で煮詰める作りではない。そもそもこの映画はエリックとシェリーが殺される場面から始まり、観客は怒りより先に喪失感と死者の気配を受け取る。そのため、概念的な意味での敵の悪事は重いが、執行カタルシス型リベンジ映画に必要な胸糞燃料の圧縮が十分に積み上がる前に制裁執行モードに移行し、フラッシュバックや回想シーンで胸クソの悪さを補う構成だ。

また、本作は加害の事実は明確だが、「なぜトップダラーがシェリーを排除したかったのか」という動機の詳細が本編で説明されない。どういう内容で誰宛に出した陳情書なのか、住民を移転させることによりトップダラーは何を得るのか、T-バードの台詞「住民移転プログラムに従わなかった」は動機の説明ではなく、T-バード自身の視点からの状況説明に過ぎない。なぜトップダラーが移転プログラムを進めていたかは語られない。本作は敢えて動機の核心を抽象化することで、ゴシック・ファンタジーとしての神話的質感増すことを狙っているのかもしれない。エリックの復讐は「具体的な悪事」への報復というより「死そのものへの抗議」として昇華される。作り手の意図としてはそういう狙いだろう。しかし執行カタルシス型リベンジ映画として測定する当鑑定所の物差しでは、この抽象化はマイナスに働いてしまう。敵の動機が明瞭に描かれることで、執行の正当性が完成するからだ。

※採点基準の概要は「リベンジ映画鑑定要領(概要)」をご覧ください。

1 不条理(過失相殺)4/5
2 喪失(損害規模)5/5
3 被侮蔑(ナメられ)3/5
4 報復対象(安定性)5/5
5 敵の悪(邪悪性)3/5
6 後味(生存希望)4/5
7 配役(適正顔)4/5
8 演技(感情伝達)4/5
9 演出(爆発の美学)5/5
10 伏線回収(因果応報の設計)3/5
11 倫理の納得感(観客同調)5/5
12 敵の歯ごたえ(障害強度)3/5
基礎点合計(1〜12)48/60

基礎点の根拠

1 不条理:4/5
エリックとシェリーは、シェリーが立ち退き反対の署名を集めていたことで襲われる。もちろん殺される理由にはならない。だが、完全に無差別の災難というより、相手にとって邪魔な存在だったために狙われた型である。

2 喪失:5/5
エリック本人の命、婚約者シェリーの命、結婚式前夜の希望、すべてが失われる。シェリーはさらに三十時間苦しんで死ぬ。損失は壊滅的である。

3 被侮蔑:3/5
シェリーとエリックは住民の一人として雑に踏み潰される。見下しはあるが、長く執拗に侮辱を積み上げる型ではない。胸糞の核は侮蔑そのものより、暴力の重さにある。

4 報復対象:5/5
Tバード、ティン・ティン、ファンボーイ、スカンク、そして指示者トップダラー。階層はあるが全てつながっており、誤認や拡散はない。

5 敵の悪:3/5
強姦殺人、連続放火、麻薬売買、デビルズ・ナイトで街を焼く計画と、設定上の悪は重い。だが、陳情書の詳細がわからず実際の悪の実態はそこまで厚く描かれていないため、観客の怒りの燃料としては標準止まりである。

6 後味:4/5
エリックは死ぬが、シェリーの霊と再会して安らかに消える。アルブレヒトは生存し、サラはクロウから指輪を受け取り、ダーラも麻薬から離れて娘と暮らす。完全再生ではないが、救済の感触は残る。

7 配役:4/5
ブランドン・リーはこの役に合っている。顔立ち、身のこなし、痛みを抱えた雰囲気がエリックという人物に噛み合う。トップダラー役のマイケル・ウィンコットも印象は強い。

8 演技:4/5
ブランドン・リーは痛みと哀しみを静かに見せる。マイケル・ウィンコットのトップダラーも独特の語り口で印象を残す。

9 演出:5/5
雨、墓地、クロウ、廃墟化した街、蝋燭を並べたロフト、嵐の教会屋根。アレックス・プロヤスはこれらを一貫した暗色の画調でまとめ、復讐劇に神話の質感を与えている。音楽と挿入歌も画と噛み合う。エリックのメイクも効果的だ。

10 伏線回収:3/5
効いているのは、シェリーが三十時間苦しんで死んだという事実が最後にトップダラーへ返る一本の仕掛けである。これは機能しているが、全体として特別に伏線を張り巡らせたプロットではない。

11 倫理の納得感:5/5
加害者は強姦殺人犯とその指示者で、同情の余地はない。巻き添えや過剰な制裁もない。観客がエリックに同調できないと感じる要素はほぼ存在しない。

12 敵の歯ごたえ:3/5
個々のギャングは不死身のエリックの前では相手にならない。トップダラーだけがクロウを撃って不死性を奪うという策略を持ち、最終盤で対等に戦える状態を作る。

最終鑑定点:192/300(基礎点合計×決着成立度)

格付け:C級(佳作)

『クロウ/飛翔伝説』は、執行カタルシス型リベンジ映画の王道にかなり近い一本である。喪失は壊滅的で、報復対象も明確、ボスのトップダラーに至るまで自らの手で始末する。特にシェリーの三十時間にも及ぶ病院での苦しみをトップダラーに味わわせて殺す方法は独創的だ。だが、リベンジに至る燃料の圧縮と積み上げは物足りない。概念的な敵の悪事は十分だが、そもそもサラが陳情書を書くに至った経緯やその内容、立ち退きによってトップダラーが何を得るのか等々具体的な説明が無いため、トップダラーが襲撃させた動機も不明瞭、サラが守ろうとしたことも不明瞭、結果リベンジの正当性も不明瞭ということになってしまい、執行カタルシス型リベンジ映画としてやや弱くなってしまったのが残念だ。

また、本作はブランドン・リーが撮影中に事故死してしまうという衝撃的な出来事があった。監督と制作陣はリーの死後、撮影を続行するかどうか悩みに悩んだうえで、残された素材と代役で映画を完成させ、本作をリーと撮影後に結婚予定だったエリザ・ハットンに捧げた。この映画を観るものは、どうしてもスクリーンの上のエリックの死とリー自身の死を重ねてしまい、そのことがこの映画を特別なものにしている。

雑記

トップ・ダラーを演じたマイケル・ウィンコットは知的で理性的で物静かな悪役というイメージなので、この映画の雰囲気と合っているし、ボス役にもはまり役だとは思うけれど、それが逆にカタルシス的には仇となっているのかもしれない。当たり前だが俳優のイメージって重要だ。

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