バレリーナ:The World of John Wick(2025年アメリカ)

バレリーナ:The World of John Wick(2025年アメリカ)
邦題バレリーナ:The World of John Wick
原題Ballerina
公開年2025
製作国アメリカ
監督レン・ワイズマン
主演アナ・デ・アルマス

概要

『バレリーナ』は、主人公イヴ・マカロが父を殺した教団とその指導者を討つ復讐劇だ。イヴ・マカロの父ハビエルは教団の掟に背いて幼いイヴを教団の村から連れ出し、密かに暮らしていたが教団に見つかり襲撃され、父は命を落としてしまう。父の死後、ニューヨーク・コンチネンタルの支配人ウィンストンの手引きで、イヴはルスカ・ロマで世話になる。表向きはバレエ団だが、実態は暗殺者の養成機関である。父親を殺した犯人に対する憎しみを募らせるイヴは、結果的に父ハビエルが望まなかった殺しの世界へ足を踏み入れ殺し屋として歩むことになる。

※採点基準の概要は「リベンジ映画鑑定要領(概要)」をご覧ください。

1 不条理(過失相殺)3/5
2 喪失(損害規模)4/5
3 被侮蔑(ナメられ)3/5
4 報復対象(安定性)5/5
5 敵の悪(邪悪性)4/5
6 後味(生存希望)4/5
7 配役(適正顔)5/5
8 演技(感情伝達)5/5
9 演出(爆発の美学)5/5
10 伏線回収(因果応報の設計)3/5
11 倫理の納得感(観客同調)4/5
12 敵の歯ごたえ(障害強度)5/5
基礎点合計(1〜12)50/60

基礎点の根拠

1 不条理:3/5
何も事情を知らないイヴにとっては不条理極まりない。しかし、ハビエルは、教団の掟に背いて娘を連れ出し、報復のリスクを承知のうえで隠れていた。父の死には必然の側面がある。

2 喪失:4/5
喪失は父ひとりにとどまるが、まだ子供であるイヴにとって唯一の肉親である父親を殺された喪失感は大きい。

3 被侮蔑:3/5
教団はイヴを無価値として侮辱するのではなく、価値ある血筋として奪い返そうとする。過小評価やナメた扱いという項目3の軸からは外れる。所有の意思はあるが、侮蔑の度合いは標準にとどまる。

4 報復対象:5/5
報復は、父を死に追いやった教団とその頂点チャンセラーだ。対象は個人から教団、町全体へ広がるが、最終的にチャンセラーに収束する。

5 敵の悪:4/5
チャンセラーの教団は、村の子供を掟で縛って殺し屋に育てるなど情状の余地は乏しい。ただしルスカ・ロマも子供を殺しの世界へ組み込んでおり、その相似が教団の悪を相対化する。

6 後味:4/5
イヴは復讐を成し遂げ、エラを父の元へ連れて行くことで過去の自分と重ね合わせているのだろう。姉レナの死と自身に対する懸賞金で平穏は戻らないが、標準の虚無を超える希望がある。

7 配役:5/5
アナ・デ・アルマスに加え、キアヌ・リーブス、イアン・マクシェーン、アンジェリカ・ヒューストンらジョン・ウィックのキャストが要所で登場し、スピンオフではあるが、ジョン・ウィックの世界観が違和感なく表現されている。

8 演技:5/5
アナ・デ・アルマスも他主要なキャストもベテランの安定感を見せる。

9 演出:5/5
アナ・デ・アルマスのガンフーアクションシーンは見応え十分だ。特に銃のグリップにナイフを固定して闘うシーンや、手榴弾の扱い方、ドアやテーブルの使い方、火炎放射器同士の対決は印象的だ。他にもナイフや斧や日本刀も使いこなすなど、非常に多様な武器を使用してテンポ良く敵を倒していく様子は爽快だ。

10 伏線回収:3/5
イヴの記憶に残る犯人の手首の傷がのちに倒すべき教団へとつながる。また、ハビエルとイヴ、パインとエラという似た境遇の父子の運命を対比させるプロットも作品に深みを与えている。

11 倫理の納得感:4/5
イヴが教団に報復すること自体に違和感はない。父を殺され、自分もエラも殺し屋の世界へ戻されかけている。ただしルスカ・ロマも教団と同様の組織であることと、ウィンストンはルスカ・ロマの最終試験は命がけの銃の組み立てスピード競争であることを知ってか知らずか、イヴに選択をさせた上でルスカ・ロマに連れて行くくだりには、いくらイヴのためであるとはいえども倫理的な違和感は残る。

12 敵の歯ごたえ:5/5
ハルシュタットは町ぐるみの暗殺者共同体であり、住民全員が刺客となる。イヴは町内を探しながら制圧して進むしかなく、突破に要する敵の数も多い。

最終鑑定点:225/300(基礎点合計×決着成立度)

格付け:B級(良作)

イヴの父ハビエルは娘イヴを殺し屋にしないためにイヴを連れて逃げた。そのイヴが、皮肉なことに、コンチネンタルの支配人ウィンストンの手引きでルスカ・ロマに入り、殺し屋として育てられて父の仇を討ちに行く。ウィンストンはハビエルの願いを知っていたはずだ。放っておいて教団に連れ戻されるくらいなら、子供の復讐心を上手く利用してルスカ・ロマにまんまと入れてしまおうという、ウィンストンにしては珍しく表情に罪悪感が滲み出る場面が印象的だ。そんなイヴが鍛えられて殺し屋デビューして実戦を重ねていくうちに、自分の生い立ちや敵の素性が判明していくというイヴの物語だ。

また、アナ・デ・アルマスは007ノー・タイム・トゥ・ダイでアクション女優の片鱗は見せていたが、本作で覚醒した感がある。ジョン・ウィック制作チームによるサポートの力も大きいだろう。そしてとにかく印象深いのは武器の豊富さだ。ガンフーを基本形として何でも武器にするスタイルは共通だが、本作はさらに火炎放射器対決や火炎放射器と水などの派手なシーンも見所だ。

雑記

どうしても解せないのが、実戦に出る前の訓練の最終ステージとして行われた銃の組み立てスピード競争だ。ルスカ・ロマで時間と金をかけて育成したデビュー間近の殺し屋候補をだ、撃つのがほんの一瞬遅れただけで死ぬ可能性があるテストを最終段階として実施するのは理屈が通らない。相手の銃に細工がしてあってイヴは死なないことになっている前提ならまあわかるが、そんな設定では無いように見える。命令通り人を殺せるか腹の決まり具合を確認するテストならわかる。キングスマンのように自分のパートナーにした愛犬に手をかけられるかというテストもまあわかる。だが相手より銃を素早く組み立てて撃てるかどうかを見極めるテストは必要なのか。殺し屋としては申し分ないメンタルとスキルを備えながらも、銃の組み立てスピードが相手より0.1秒遅かっただけで死んでしまうこともあり得るわけだ。12年も訓練して暗殺者として最高水準の資質を備えてるのに、最後のテストで0.1秒遅れたので死にました。銃の組み立てスピード以外は完璧だったのに実戦デビュー出来なくて残念だけど仕方ないですねということにはならないし、そもそも理不尽なテストが最後に控えていると知った殺し屋になりたい候補生はルスカ・ロマから逃げるでしょ。

あくまでジョン・ウィックのスピンオフということと、本作はアクションシーンの見本市映画と割り切ればそれはそれでいいと思う。が、とにかくアクションシーンに全精力を注ぎすぎて、情念シーンすっかり忘れてました感がある。イヴ・マカロがどれほど父親を殺した相手を恨んでいるのか、イヴ・マカロをルスカ・ロマに入れたウィンストンの葛藤、少女時代のイヴ・マカロの苦労、イヴ・マカロを追うチャンセラーの執念、簡単に言うけど難しいそういうシーンをもっと厚くすれば、単なるアクションシーンの見本市にならずに済んだのにとは思う。

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