トゥルー・グリット(2010年アメリカ)

邦題トゥルー・グリット
原題True Grit
公開年2010
製作国アメリカ
監督コーエン兄弟
主演ヘイリー・スタインフェルド、ジェフ・ブリッジス、マット・デイモン、ジョシュ・ブローリン

概要

映画『トゥルー・グリット』は、コーエン兄弟監督・脚本による2010年のアメリカ西部劇である。チャールズ・ポーティスの1968年小説の二度目の映画化で、1969年にはジョン・ウェイン主演版(邦題:勇気ある追跡)がある。1878年のアーカンソー州を舞台に、父を殺された14歳の少女マティ・ロスが保安官補ルースター・コグバーンを雇って犯人を追う。

本作は復讐者が14歳の少女という西部劇である。マティ・ロスは父をトム・チェイニーに射殺され、保安官補コグバーンを雇って犯人を追う。テキサス・レンジャーのラビーフも別件でチェイニーを追っており、三人の追跡行となる。最終的にマティが自分の手でチェイニーを撃って復讐を完遂するが、マティは毒蛇に咬まれてしまい、コグバーンはマティを助けようと夜通し馬を走らせ、馬が潰れたら背負って医者の元へ運び、マティはなんとか一命は取り留めるものの左腕を失うことになる。そして25年の月日が流れる。

※採点基準の概要は「リベンジ映画鑑定要領(概要)」をご覧ください。

1 不条理(過失相殺)4/5
2 喪失(損害規模)3/5
3 被侮蔑(ナメられ)3/5
4 報復対象(安定性)5/5
5 敵の悪(邪悪性)3/5
6 後味(生存希望)4/5
7 配役(適正顔)5/5
8 演技(感情伝達)5/5
9 演出(爆発の美学)5/5
10 伏線回収(因果応報の設計)5/5
11 倫理の納得感(観客同調)4/5
12 敵の歯ごたえ(障害強度)3/5
基礎点合計(1〜12)49/60

基礎点の根拠

1 不条理:4/5
マティの父は、ギャンブルで負けて銃を持ち出したチェイニーを止めようとして撃たれて死亡、チェイニーは父の金貨と馬を奪って逃走する。完全な不条理だが、映画は父が倒れた場面から始まっており、予見可能性が一切なかったとまでは言えない。
2 喪失:3/5
マティが失ったのは父であり、配偶者・恋人の喪失と同等の標準的な喪失。

3 被侮蔑:3/5
チェイニーがマティの父を衝動的に撃ったのかどうか定かでは無いが、長期にわたる人格攻撃や侮蔑の積み上げはない。

4 報復対象:5/5
マティの標的はトム・チェイニー一人に最初から最後まで定まっている。

5 敵の悪:3/5
チェイニーはギャンブルのいざこざで父を撃ち、馬と金を奪って逃げる。ジャンル標準の犯罪。

6 後味:4/5
マティ自身の手でチェイニーを撃ち復讐は果たしたが、毒蛇にかまれた左手の切断手術が終わって目が覚めるとコクバーンは既に去った後だった。それから25年後にコクバーンから手紙が届いて消息が判明し、再会のチャンスが訪れるが、訪ねていった3日前にコクバーンは亡くなっており、ついに再会は叶わなかった。マティは身寄りの無いコクバーンの遺体を引き取り自分の敷地に埋葬する。会えなかったことは残念ではあるが、マティもある意味心の整理がついたようであり、余韻のある終わりかただ。なお、ラビーフともその後再会はしていない。

7 配役:5/5
スタインフェルドのマティ、ブリッジスのコグバーン、デイモンのラビーフ、ブローリンのチェイニー、観終わってみれば四人とも別の俳優では想像しにくいレベルで役にはまっている。

8 演技:5/5
当時13歳のスタインフェルドは映画初出演だが、大人に対して遠慮すること無くはっきりと物を言う、大人でも子供でもない微妙な年頃の役柄を見事に演じている。

9 演出:5/5
コーエン兄弟は復讐の決着場面を映画の最大の見せ場にしていない。記憶に残るのは、マティの価格交渉、マティとコグバーンの初対面と雇用交渉、三人の冬の追跡行、ペッパー一味との銃撃戦でのコグバーンの単騎突撃、ガラガラ蛇の穴、コグバーンの夜通しの救出行、25年後のエピローグである。マティがチェイニーを撃つ復讐の決着場面はこれらの中に置かれた一場面に過ぎない。リベンジ映画の演出として測れば執行の瞬間に頂点を置く設計ではないが、本作はそもそも復讐そのものをメインに据えた映画ではない。代わりにマティの粘り強さ、男たちとの旅、西部の冬の質感、後年のエピローグを描き切る演出として非常に完成度が高い。

10 伏線回収:5/5
コグバーンがマティにニューメキシコで7人相手に単騎突入したときの様子を語る。手綱を口に咥え、両手に銃を構えて突っ込んだという話で、マティは「一人で7人に向かうのは信じがたい」と疑う。これが終盤のペッパー一味との対決でそのまま再現される。コグバーンは4人のペッパー一味に対して、手綱を口に咥えて両手に銃を構え、単騎で突撃する。シンプルだが本作で最も強い伏線回収だ。

11 倫理の納得感:4/5
マティは父を殺された娘として復讐の正当性を持ち、観客は最後まで彼女を応援できる。チェイニーには情状酌量の余地がない。

12 敵の歯ごたえ:3/5
チェイニーは犯罪者として強敵ではない。途中のペッパー一味との戦闘の方が緊張感を持つ。

最終鑑定点:245/300(基礎点合計×決着成立度)

格付け:B級(良作)

『トゥルー・グリット』は復讐譚の骨格を持つ西部劇である。父を殺された14歳の少女マティが保安官補コグバーンを雇い、犯人トム・チェイニーを追う。最終的にマティが自分の手でチェイニーを撃って復讐を完遂する。標的は明確、動機は揺るがず、決着もマティ自身がかたをつける。

ただし本作はリベンジ映画としての燃料設計に弱点を抱える。映画は冒頭で既に父が倒れている場面から始まり、父の人柄、マティとの絆、家族の中での父の位置を示す場面が一切描かれない。父娘の場面が冒頭に置かれていれば、観客の体感する不条理と喪失の重みはもっと積み上がっただろう。ただし、これは原作に忠実であるがゆえ仕方のないところでもあるのだが、執行カタルシス型リベンジ映画として観てしまうと残念なところだ。

だが、本作は復讐そのものが主題の映画ではない。コーエン兄弟が描いたのは、マティの純粋で一途な性格がコクバーンやラビーフの心を動かす冬の追跡行そのものであり、そして25年後のエピローグだ。それでも本作は245点・B級に着地する。報復対象が安定し、伏線回収が効き、決着もマティの設計と統制の延長で成立しているためである。コグバーンが旅の途中でマティに語る「ニューメキシコで7人の追手に単騎突入した」昔話が、終盤のペッパー一味との対決で完全に再現される伏線回収は、本作で最も強く効いた構造である。

雑記

アカデミー賞10部門ノミネートながらも無冠に終わってしまったのは相手(英国王のスピーチ、ソーシャルネットワーク、ザ・ファイター、インセプション、ブラックスワン)が悪かった。だがしかし、自分的には既にベテランで作り込まれたナタリー・ポートマンよりも、演技なのか素なのかよくわからない素晴らしい演技と、とにかく思ったことは口に出しておじさん達をタジタジにしたマティ役のヘイリー・スタインフェルドに主演女優賞をあげたい。

コメント