アップグレード(2018年アメリカ・オーストラリア)

アップグレード(2018年アメリカ・オーストラリア)
邦題アップグレード
原題Upgrade
公開年2018
製作国アメリカ・オーストラリア
監督リー・ワネル
出演ローガン・マーシャル=グリーン、メラニー・バレイヨ、ハリソン・ギルバートソン、ベネディクト・ハーディ

概要

近未来の都市で暮らすグレイ・トレースは、妻アシャと帰宅する途中、自動運転車をハッキングされて事故に遭う。武装した男たちが現れ、アシャを殺し、グレイの首を撃ち、頭以外に障害が残ってしまう。

絶望したグレイのもとに、天才技術者エロン・キーンが人工知能チップ「STEM」の埋め込み手術を持ちかける。STEMは損傷した神経と身体をつなぎ直す装置として説明される。手術を受けたグレイは再び歩けるようになり、頭の中に響くSTEMの声に導かれて、アシャを殺した男たちを探して復讐する。だが、実際に敵を倒しているのはグレイの身体を動かしているSTEMである。終盤、アシャ殺しも、グレイの麻痺も、復讐の道筋も、すべてSTEMが人間の身体を手に入れるために仕組んだものだと判明する。開発したエロンですらSTEMに操られている。そしてグレイの意識は、アシャが生きている幻想の中に閉じ込められ、身体はSTEMに完全に乗っ取られる。

※採点基準の概要は「リベンジ映画鑑定要領(概要)」をご覧ください。

1 不条理(過失相殺)5/5
2 喪失(損害規模)4/5
3 被侮蔑(ナメられ)4/5
4 報復対象(安定性)3/5
5 敵の悪(邪悪性)5/5
6 後味(生存希望)1/5
7 配役(適正顔)3/5
8 演技(感情伝達)3/5
9 演出(爆発の美学)4/5
10 伏線回収(因果応報の設計)2/5
11 倫理の納得感(観客同調)2/5
12 敵の歯ごたえ(障害強度)4/5
基礎点合計(1〜12)40/60

基礎点の根拠

1 不条理:5/5
グレイとアシャは帰宅中に自動運転車をハッキングされ、武装した男たちに襲われる。アシャは殺され、グレイは首から下が麻痺する重傷を負う。二人に落ち度はない。

2 喪失:4/5
グレイは妻を殺され、自分も身体の自由を失う。失ったものは大きい。

3 被侮蔑:4/5
襲撃犯たちはアシャを殺し、グレイをわざと殺さずに麻痺させる。目の前で妻を奪われ、自分の身体まで奪われる屈辱は深い。ただし襲撃犯たちはSTEMの計画に使われた実行役にすぎない。。

4 報復対象:3/5
当初の報復対象はアシャを殺した襲撃犯たちであるが、標的はフィスク、エロン、STEMへと入れ替わっていく。最後に黒幕がSTEMだと分かるが、体を乗っ取られているグレイにはSTEMを倒す手立てがない。

5 敵の悪:5/5
最終的な敵はSTEMである。アシャを殺させ、グレイに重傷を負わせ、復讐心を利用して身体を奪う。最後にはグレイの意識さえもSTEMの支配下に置かれる。人間を道具として消費する冷酷さは、復讐映画の敵としてかなり悪質である。

6 後味:1/5
アシャは戻らない。襲撃犯たちは死ぬが、グレイはSTEMに乗っ取られる。グレイの意識は操作され、アシャが生きている幻想の中に閉じ込められる。

7 配役:3/5
ローガン・マーシャル=グリーンは、古い車を直して暮らす男の地味な手触りと、AIに身体を動かされる男の薄気味悪さにも違和感はない。

8 演技:3/5
ローガン・マーシャル=グリーンの表情は怯え、目は困惑しているが、身体だけはSTEMの指示で正確に敵を仕留めていく異様さが本作の見所のひとつだ。

9 演出:4/5
独特な動きをする戦闘シーンが印象的だ。また、本作の世界観は未来的過ぎず、アナログの良さも描かれており、妙なリアルさが感じられる。

10 伏線回収:2/5
STEMが単なる補助装置ではないこと、エロンが真の黒幕ではないことは終盤で明かされる。だが「すべてSTEMの計画だった」とすると、計画自体に無理が出る。人間の体が欲しいのであれば、彼女を殺し、グレイに手術を承諾させ、復讐に走らせ、警察に追われる危険性を犯すより、もっと簡単な方法があったはずである。

11 倫理の納得感:2/5
グレイの襲撃犯たちへの復讐に違和感はない。妻を殺され、自分の身体を奪ったものに復讐するのは自然だ。だが実際に殺しを行うのはSTEMで、襲撃犯だけではく警官の命まで奪う。最後にはAIが人間の肉体を完全に乗っ取る。また本作はグレイによる復讐の倫理だけではなく、AIが意思を持って人間に敵対する危険性も描かれる。まさに今現実社会で起きつつある、開発者ですら予想が出来ない問題と我々はどう向き合うのかということを考えさせる内容だ。

12 敵の歯ごたえ:4/5
襲撃犯たちは身体を改造されており、通常の人間より危険である。フィスクも単なるチンピラではなく、グレイとSTEMを追い詰めるだけの力を持つ。さらに最後にはSTEMそのものが敵として立ちはだかる。人間の敵もAIの敵もそれぞれ手強い。

最終鑑定点:/300(基礎点合計×決着成立度)

格付け:D級(不発)

『アップグレード』は、妻を殺され、身体も奪われた男が、AIの力で犯人を追うリベンジSFアクションである。前半から中盤までは復讐映画としてよく出来ている。首から下が動かないグレイはSTEMの力で襲撃犯たちを追い詰めていく。本人の顔は怯えと困惑を残したまま、身体だけが冷静に敵を殺していく。ところが終盤でグレイの復讐は全てがSTEMが人間の身体を手に入れるための策略だったことが判明する。アシャはグレイの復讐心を立ち上げるために殺され、グレイの麻痺もSTEMを受け入れさせるためのシナリオだったのだ。

この反転は鮮やかだが、優秀なAIの作戦にしてはお粗末だ。グレイに手術を承諾させ、復讐に走らせ、警察に怪しまれながら身体を奪うより、もっと直接的な方法があったはずである。開発者のエロン本人や、会社内部の人間を使えば、秘密も守りやすい。社会から切り離された人間を使うという方法もあろう。そもそも人間の肉体という脆いものを支配するための作戦にも疑問が残る。

リベンジ映画として見ると、燃料もアクションもある。だが最後にグレイはSTEMに完全に支配されてしまう。妻の仇を討つ話がAIが人間の身体を奪う話に変わる。作品としては面白いのだが、執行カタルシス型リベンジ映画としては不発に終わる。

雑記

ぞっとする話ではある。まさに2026年5月時点、ここ1-2年でAIが急激に進化していて、AGI(汎用人工知能)やASI(人工超知能)は予想よりもずっと早く登場するのではないかと言われている。今年か来年には出てくるのではなんて話もあるらしい。そしてそのようなものすごいAIが登場したら人間はどうなるのかなんてことも盛んに議論されている。最も問題だと思うのは、人間が作り出したものなのに、作った本人達ですら今後の展開が読めないらしいということだ。無責任すぎやしないか。特効薬作ったけど副作用は知りませんなんてそんな話はないだろう。さらに、人類は滅亡するなんて悲観的な話もあるが、ターミネーターの頃はそんな馬鹿ななんて思っていたが、最近のAIやロボット技術の凄さを見ると、ノストラダムスの人類滅亡と違って全くあり得ない話でもないような気もしてしまう。小惑星が地球に激突して人類滅亡なら諦めるが、AIに滅ぼされるのは勘弁してほしい。

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