復讐の記憶(2022年韓国)

復讐の記憶(2022年韓国)
邦題復讐の記憶
原題리멤버
公開年2022
製作国韓国
監督イ・イルヒョン
主演イ・ソンミン、ナム・ジュヒョク

概要

主人公のピルジュは、ファミレスで働く80代の老人である。ピルジュは若い頃日本統治下の朝鮮で家族を全員失う。ピルジュの父ハン・ヨンシクは、小作人だったチョン・ベクジンに左翼として陥れられ、土地と財産を奪われたうえで殺される。母は夫を失ったことで精神を病んで死亡、兄は友人だったヤン・ソンイクにだまされて強制徴用先の炭鉱で死に、姉は従軍慰安婦にされ、帰国した後に自ら命を絶つ。そして月日は流れ、自身もアルツハイマー病と脳腫瘍を患い、妻が亡くなったことをきっかけに長年あたためてきた復讐計画を実行に移す。

※採点基準の概要は「リベンジ映画鑑定要領(概要)」をご覧ください。

1 不条理(過失相殺)5/5
2 喪失(損害規模)5/5
3 被侮蔑(ナメられ)4/5
4 報復対象(安定性)4/5
5 敵の悪(邪悪性)5/5
6 後味(生存希望)2/5
7 配役(適正顔)2/5
8 演技(感情伝達)4/5
9 演出(爆発の美学)3/5
10 伏線回収(因果応報の設計)3/5
11 倫理の納得感(観客同調)2/5
12 敵の歯ごたえ(障害強度)2/5
基礎点合計(1〜12)41/60

基礎点の根拠

1 不条理:5/5
少年時代のピルジュに落ち度はない。父は土地と財産を奪われたうえで殺され、母は精神崩壊、兄は友人にだまされて強制徴用先で死に、姉は日本軍慰安婦にされたあと自ら命を絶つ。家族を壊された理不尽は最大級である。

2 喪失:5/5
ピルジュは父、母、兄、姉を失っている。家族を丸ごと奪われ、喪失の規模は壊滅的である。

3 被侮蔑:4/5
ピルジュの家族を破滅させたものたちは、同胞を売り、他人の家族を壊したことを踏み台にし、戦後は素性を隠して社会的な成功を収めている。ヤン・ソンイクは作家として扱われ、キム・チドクは国家の功労者として表彰される側にいる。過去を踏みにじられた側から見れば屈辱は深い。ただし、現在の敵がピルジュ本人を直接見下し続ける話ではない。

4 報復対象:4/5
ピルジュは標的の名前を指に刻んで忘れないようにしており、誰に報いる話かは明確だ。ただ、最後に自分自身が「清原」として処断対象に入るため、報復の向き先は外の敵だけでは終わらない。

5 敵の悪:5/5
日本軍に媚びを売り、同胞も売り、しかも戦後は素性を隠して社会的な成功を収めている。情状を酌む余地はほとんどない。

6 後味:2/5
家族を死に至らせた当事者に対する復讐は果たされたが救いに乏しい。ピルジュは多数を殺し、最後には自分にも銃を向ける。インギュに止められて生き残るが、ピルジュに明るい再生はない。インギュも、無関係の若者でありながら殺人事件に巻き込まれ、人生を大きく傷つけられる。

7 配役:2/5
イ・ソンミンは役者としての実力があるが、80代の老人役は違和感しか無い。特殊メイク、白髪、歩き方で老いを作っているものの、顔つきと身体の芯にまだ力が残っている。同じ画面に実年齢80代超のパク・グニョンが立つと、その差はさらに見えてくる。復讐アクションとしては動けるが、80代の老人としてのリアリティに欠ける。

8 演技:4/5
イ・ソンミンは、穏やかな老人の顔と、標的を前にした顔の二面性をよく演じている。ただし、アルツハイマー病と脳腫瘍で苦しんでいるように見えず、必要な場面ではピルジュが動いてしまうため、病気が復讐計画の遂行を危うくするような緊張感がない。

9 演出:3/5
作家のヤン・ソンイク射殺場面で、古い弾が数発続けて不発になるシーンは、土に埋めた関東軍時代の古い銃としてのリアリティがある。60年保管された拳銃と弾薬の危うさが、執行の緊張になる。また、赤いポルシェによるカーチェイス、式典での銃撃など、アクション映画的な見せ場もある。ただ、題材の重さに対して、実行場面は演出の派手さと都合のよさが前に出る場面が多い。トージョー・ヒサシのキャラクターに至っては漫画的過ぎて執行カタルシス的には逆効果とも言える。

10 伏線回収:3/5
26年式拳銃に刻まれた「清原」、ピルジュの軍歴、ソ院長が知る過去など、終盤で回収される材料はある。自分自身が最後の標的だったという仕込みも、拳銃の刻印によって示されている。ただし、ヤン・ソンイクの身分証で会場に入る、トイレで即席装置を作る、終盤で表彰対象として標的に近づくといった実行手順は都合がよい。回収はあるものの、そのプロセスには疑問が多い。

11 倫理の納得感:2/5
ピルジュの復讐の動機に違和感はない。だが、バイトの同僚である若いインギュを巻き添えにしたのは大いに疑問だ。インギュは復讐の因果に全く関係ない。運転手代わりに使い、水原警察署前では銃を自分の頭に向け、自分が死ねばインギュが老人3人殺害の犯人になると迫る。しかも最後のキム・チドクは孫娘の見ている前で射殺するなど、その執行方法やプロセスには大いに問題がある。

12 敵の歯ごたえ:2/5
標的たちは社会的な地位を持つ老人たちだが、実際の抵抗や警戒は小さい。警察も警備も甘い。ヤン・ソンイクの身分証で会場に入れたり、式典で標的の近くまで行けたりするため、敵を突破した手応えは無い。

最終鑑定点:102.5/300(基礎点合計×決着成立度)

格付け:D級(不発)

『復讐の記憶』は、復讐の燃料だけなら重い。日本統治下で家族を奪われた老人が、記憶を失う前に親日協力者たちへ報いを受けさせる。父、母、兄、姉を失った過去は苛烈である。60年越しの復讐という設定もよい。標的の名前を指に刻む発想も、復讐映画として分かりやすい。

だが、復讐に至るプロセスに問題が多い。ピルジュは無関係の若者インギュを運転手として使い、事実を知り警察へ話そうとした彼を銃で脅す。目立つ赤いポルシェ、ヤン・ソンイクの身分証偽造による会場入り、トイレで火薬と重曹を使った即席装置。終盤には、ベトナム戦争従軍者として表彰される設定でキム・チドクへ近づく。長年準備してきた復讐の割には方法が杜撰であり、しかもかなり都合良くピンチを切り抜ける。

さらに、ピルジュ=清原=最後の標的という処理も雑である。最初から自分を最後の標的に入れていたようだが、それが最初から分かっていたのであれば、なおのことインギュを巻き込むべきではない。水原警察署前でピルジュ本人が言ったように、ピルジュが死んでしまえば残されたインギュの立場がより危うくなる。だが、姉を従軍慰安婦にした奴らと同じ関東軍の制服を着て満州に行くと、帰国した唯一の残された家族である姉に面と向かって言うような人間である。結果絶望した姉は自殺してしまう。インギュを巻き添えにすることなど実はあまり気にしていなかったのかもしれない。となると、家族に対する思い入れや、この復讐計画に対するピルジュの真剣さの度合いも揺らいでくる。

雑記

リメイク元の『手紙は憶えている』は、認知症の老人が苦労しながら周囲の人たちに助けられ、列車、バス、タクシーを乗り継ぎ相手にたどり着く映画だ。しかも同姓同名の人物を順番に当たらなくてはならない。やっとの思いでホテルについて部屋への行き方を教えられても頭に入ってこない。ホテルの人は察して親切にしてくれる。国境でパスポートを出したら期限切れ、ハンドバックの中に銃を入れっぱなしではないかと観客がヒヤヒヤする。国境の係員は運転免許証と確認して特別に通してくれる。そういう老人と周囲の人たちとのかかわりもこの映画の見所のひとつだった。だが、『復讐の記憶』は運転手付きでしかもなぜか抜群に目立つ赤いポルシェで移動する。楽して迫る。復讐に対する意気込みそのものが軽く見えてしまう理由のひとつだ。1週間ポルシェ借りる金あるならタクシー使ってひとりでやれと。

余談だが、この復讐の記憶が102.5点、オールド・ボーイが102点だが、オールド・ボーイは間違いなく面白い。脚本も俳優も良いし、リベンジ映画(?)の名作だと思う。復讐の記憶は復讐の前提は強力だし、リメイク元の映画も面白い。それなのに微妙な点数。オールド・ボーイは何もかもハイレベルなのだが、あくまで執行カタルシス型リベンジ映画的な観点だと点が伸びない。両作品点数は近いけれど、その意味は全く違う。

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