作品情報
| 邦題 | アイ・スピット・オン・ユア・グレイヴ |
| 原題 | I Spit on Your Grave |
| 公開年 | 2010 |
| 製作国 | アメリカ |
| 監督 | スティーヴン・R・モンロー |
| 主演 | サラ・バトラー |
概要
映画『アイ・スピット・オン・ユア・グレイヴ』は、スティーヴン・R・モンロー監督、サラ・バトラー主演による2010年のアメリカ映画である。作家ジェニファーが執筆のため田舎の別荘を借りて滞在していたところ、地元の男たちから集団暴行と殺害未遂の被害に遭い、生き延びたのちに加害者たちへ報復を開始する物語である。
かなり純度の高い執行カタルシス型リベンジ映画である。作家ジェニファーは田舎に別荘を借りて創作に集中しようとするが、地元の男たちに襲われ、性的暴行を受け、最後は証拠隠滅のために殺されかけるが、川に飛び込んで生き延び、加害者たちに過酷な制裁を加えていく。
本作の強みは、前半の被害と後半の報復が一直線につながっていることだ。前半の暴行場面は長く、執拗で、見る側をかなり消耗させる。その描写には露悪性がある。ただ、この映画では、その露悪さ自体が後半の報復を支える燃料になっている。前半が薄ければ、後半の処刑はただ残酷なだけで終わったはずである。実際には、ジェニファーがどれほどの目に遭ったのかを観客が嫌でも見せつけられるため、後半で彼女が加害者たちを追い詰めていくとき、「なぜそこまでやるのか」という引っかかりはかなり弱まる。
しかも本作の暴力は、単なる性欲の暴走としてだけ見ると足りない。ジェニファーは都会から来た、自立した、教育のある女として描かれている。男たちは彼女を欲望の対象として見るだけでなく、自分たちの外から来た女、自分たちを見下す女として敵視している。そこには女を支配したい気持ちだけでなく、見下されたくないという反発や劣等感も混じっている。だから前半の暴行は、性的暴力であると同時に、都会の女を引きずり下ろしたいという田舎の男社会の醜い支配行為にも見える。
この映画の前半は単なるチンピラ集団の暴走では終わらない。助けを求めた保安官も暴行に加担することで、土地の権力を持つ側まで、よそ者を踏みにじるものとして扱っているからである。そのため後半の報復は、五人の男を殺す話であると同時に、自分を踏みにじった男社会の論理を一人ずつ潰していく話にもなっている。ここが本作のカタルシスを強くしている。
一方で、弱点も明白である。この映画は、苦痛の蓄積と報復の実行にほとんどの力を注いでいる。そのぶん、人物の厚みや社会的な広がり、復讐を終えたあとに何が残るのかといった部分は薄い。ジェニファーという人物も、深く掘り下げるというより、被害者から復讐者へ変わる過程に絞って見せている。
それでも、リベンジ映画として見るなら筋は通っている。標的は明確で、加害者たちの悪質さも十分に伝わる。しかもジェニファーは、自らの手で加害者たちに容赦のない制裁を加えていく。映画としての奥行きには限界があるが、復讐劇としての力はかなりはっきりしている。そういう一本である。
鑑定報告(Ver 1.3基準)
※採点基準の概要は「リベンジ映画鑑定要領 Ver1.3(概要)」をご覧ください。
| 1 不条理(被害者の無実性) | 5/5 |
| 2 喪失(奪われたものの重さ) | 4/5 |
| 3 被侮蔑(加害者からの見下し) | 5/5 |
| 4 標的(復讐対象の明確さ) | 3/5 |
| 5 敵の悪(情状酌量の余地) | 5/5 |
| 6 後味(結末のカタルシス) | 4/5 |
| 7 配役(復讐者の説得力) | 4/5 |
| 8 演技(感情の爆発度) | 4/5 |
| 9 演出(執行のスタイリッシュさ) | 4/5 |
| 10 伏線回収(因果応報の納得感) | 3/5 |
| 11 倫理の納得感(観客の同調率) | 4/5 |
| 12 敵の歯ごたえ(難易度と落差) | 3/5 |
| 基礎点合計(1〜12) | 48/60 |
基礎点の根拠
1 不条理:5/5
ジェニファーは創作のために滞在していただけである。
2 喪失:4/5
家族全滅の型ではないが、身体の安全、尊厳、安心して生きる感覚を徹底的に壊される。しかも殺されかけている。
3 被侮蔑:5/5
ジェニファーは人間として扱われないだけではない。都会から来た、自立した女として、男たちの欲望と反感の両方をぶつけられる。暴行は単なる性欲の発露ではなく、女を自分たちの土俵に引きずり下ろすための支配行為として描かれている。
4 標的:3/5
怒りの中心は複数の加害者に向いている。元凶が一人の顔に凝縮する型ではなく、小規模グループへの報復である。
5 敵の悪:5/5
集団暴行、殺害未遂、証拠隠滅、保身。どこを取っても救いがない。しかもその暴力は、性欲だけでなく支配欲と見下しを含んでいる。保安官まで加担している以上、これは単なる個人の犯罪ではなく、その場の男社会全体の腐敗として見える。
6 後味:4/5
復讐は完了する。晴れやかな再生が描かれるわけではないが、クズどもがきっちり悲惨な最後を迎えることで、観客にはかなり強い決着感が残る。回復される訳ではないが、復讐漏れは無い。
7 配役:4/5
特に加害者たちの面々は下劣さや卑小さを過不足なく出している。
8 演技:4/5
この映画は細やかな会話劇ではない。身体の傷、沈黙、視線、反撃の手つきで見せる部分が大きい。その中で主演は、被害者から復讐者への変化をきちんと見せている。加害者たちの胸糞の悪さ、特に保安官のクズっぷりが見事だ。あらゆる映画からクズ保安官を集めたら上位につけるだろう。
9 演出:4/5
前半は長く、露悪的で、見る側をかなり消耗させる。ただ、この映画ではその過酷さが後半の報復を支えている。後半の処刑場面も整理されており、復讐劇としての見せ場はきちんと作っている。独自の思想を強く感じる演出ではないが、作品の構造を支える仕事はしている。
10 伏線回収:3/5
緻密な構成で驚かせる映画ではない。だが、前半で置いた要素が後半の報復手段につながっていく目には目を程度の整理はある。標準点の範囲である。
11 倫理の納得感:4/5
ジェニファーへの同情は崩れにくい。加害者たちの言動の胸糞の悪さ、しかも保安官まで加担していることで、この暴力は個人の犯罪を超えて土地の男社会全体の腐敗として見えてくる。そのため後半の報復は、単なる私怨以上の反転として受け取りやすい。ただし、加害者に対する処刑の手段はかなり苛烈である。
12 敵の歯ごたえ:3/5
加害者たちは数で優位に立ち、前半では圧倒的な暴力として振る舞う。しかし後半では一人ずつ孤立し、ジェニファーの狩りの対象になる。壁としては標準的である。
13 執行精度(倍率): ×5
ここが本作の核である。加害者たちはジェニファーの想定外の制裁によって恐怖と絶望と後悔を味わうことになる。第三者任せにもせず、事故任せにもならず、ジェニファーは最後まで主導権を手放すことなく制裁を執行する。キリスト教徒だろうと、子供が小さかろうと、二人目がもうすぐ生まれそうだの彼女には関係ない。徹底してとどめを刺す。
最終鑑定点:240/300(基礎点合計×執行精度)
格付け:B級(良作)
総評
『アイ・スピット・オン・ユア・グレイヴ』は、高尚な映画ではない。人物の厚みも、広い社会の見取り図も、深い余韻も乏しい。監督に強い思想性があるかどうかは別として、作品そのものには、単なる残酷見世物では終わらない読みの余地がある。清々しさもそれなりに味わえるが、後半の復讐ターンになると結構グロいシーンが多いので苦手な人には厳しいかもしれない。


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