フォクシー・ブラウン(1974年アメリカ)

邦題フォクシー・ブラウン
原題Foxy Brown
公開年1974
製作国アメリカ
監督ジャック・ヒル
主演パム・グリア

概要

『フォクシー・ブラウン』は、恋人を殺された女が犯罪組織に報復する映画だ。主人公フォクシーは弟リンクの裏切りで恋人マイケルを失う。相手はミス・キャサリンを頂点とする犯罪組織で、政治家、判事、陪審員を高級娼館を使って買収し麻薬取引を行っている。

フォクシーはまず「ミスティ・コットン」の偽名で娼館に入り、まず腐敗判事フェントンを下着姿で廊下に追い出して恥をかかせる。判事は怒って組織とつながる売人に重刑を下し、組織は内側から崩壊し始める。足下から組織を崩そうという作戦だ。

だが、フォクシーは正体を見破られ、牧場と呼ばれる施設に監禁されるが、隙を突いて脱出する。ここから映画は完全に執行モードに入る。

組織はフォクシーの弟リンクを射殺して報復するが、フォクシーは黒人コミュニティの自警団「反新奴隷制委員会」と連携して一斉攻撃を仕掛ける。フォクシーは麻薬取引の運び役の男を利用してメキシコの取引現場を襲撃、キャサリンの恋人であるスティーヴを捕まえてから去勢。切り取った性器をピクルス瓶に入れてキャサリンに渡し、手下二人を射殺するが、キャサリンにはとどめを刺さずに『苦しめ』と言い残して立ち去る。

※採点基準の概要は「リベンジ映画鑑定要領(概要)」をご覧ください。

1 不条理(過失相殺)3/5
2 喪失(損害規模)3/5
3 被侮蔑(ナメられ)4/5
4 報復対象(安定性)5/5
5 敵の悪(邪悪性)3/5
6 後味(生存希望)3/5
7 配役(適正顔)5/5
8 演技(感情伝達)4/5
9 演出(爆発の美学)3/5
10 伏線回収(因果応報の設計)3/5
11 倫理の納得感(観客同調)4/5
12 敵の歯ごたえ(障害強度)3/5
基礎点合計(1〜12)43/60

基礎点の根拠

1 不条理:3/5
発端は潜入捜査官マイケルが組織に潜っていたことにある。完全に平穏な日常を一方的に破壊された型とは少し違う。標準点に留める。

2 喪失:3/5
最愛の恋人マイケルを失う。弟リンクも後で組織に殺されるが、リンクは自分の裏切りでマイケルを売った当人でもある。

3 被侮蔑:4/5
組織はフォクシーを一度も対等に見ていない。恋人マイケルは計画通りに始末され、弟リンクは姉を材料に取引し、牧場の男たちはフォクシーを薬漬けにして商品として島へ売ろうとする。黒人コミュニティ全体が組織の稼ぎの源として消費されていく構造の中で、フォクシー個人もその一部品として扱われる。

4 報復対象:5/5
報復の向き先は組織のトップであるミス・キャサリンとその手下だ。

5 敵の悪:3/5
麻薬密売、司法買収、人身売買という設定は重い。だが、実際の悪の実態は画面の上でそこまで厚く積まれない。概念としては大きいが、観客の燃料としては標準止まりである。

6 後味:3/5
フォクシーは生き残り、組織も崩れる。だが、恋人も弟も戻らない。彼女のその後も描かれない。やり切ったが何も戻らない終わり方である。

7 配役:5/5
パム・グリアのルックスあっての本作だ。

8 演技:4/5
フォクシーが自警団に協力を要請するシーンが印象深い。

9 演出:3/5
乱闘シーンや監禁場所からの脱出シーン、去勢とピクルス瓶といった見せ場は機能する。ただし、溜めから解放への精密な設計や、画として観客を釘付けにする決定打のショットは少ない。

10 伏線回収:3/5
自警団の面々を前にして「正義はあなたに任せる、復讐は私がやる」という演説や、最後のピクルス瓶の届けは映画の形を決めている。ただし、前半に置いた材料が後半で鮮やかに一つへ収束するタイプではない。

11 倫理の納得感:4/5
概ねフォクシーの復讐の執行方法に対して違和感はないものの、去勢したものを彼女に渡すというある意味B級映画ならではの露悪さが本作の特徴でもある。

12 敵の歯ごたえ:3/5
キャサリンは政治家、判事、陪審員を抱き込む組織の頂点で、警察も買収されている。障害としては十分だが、末端の手下も戦闘力で圧倒してくる相手ではない。

最終鑑定点:129/300(基礎点合計×決着成立度)

格付け:D級(不発)

『フォクシー・ブラウン』は、1974年という公開時期を踏まえて見る必要がある作品である。ブラックスプロイテーションは、白人主導のハリウッドが黒人観客向けにまともに作品を供給してこなかった時代の隙間に生まれたジャンルである。その中でジャック・ヒルが用意したのが、黒人女性主人公路線のコフィー(1973)とフォクシー・ブラウン(1974)の二本。当時のハリウッドで黒人女性が演じられる役は、家政婦、乳母、娼婦といった脇役に限られていた。だが、パム・グリアは恋人を殺され復讐するために銃を持って立ち上がった。

敵のボスに白人女性ミス・キャサリンを据えた設計も重要だ。彼女は自分の手駒の女性たちを商品として売りさばいている側の人間である。フォクシーが最後に突きつける「死は簡単すぎる、苦しめ」は、白人組織が黒人を食い物にしてきた構造と、女性が女性を商品にしてきた構造の両方に向けた台詞として機能する。フォクシーががキャサリンを殺さずに生かして苦しめる選択は、相手が長年他人にしてきたことを、そのまま相手自身に返すという形の決着である。

白人男性を去勢してその彼女に見せつけるという行為、女性が女性の頂点を打ち倒す構図、映画の中の黒人女性の立場を一変させたことの歴史的意義は、点数以上の重みを持つ。

雑記

『去勢』という罰はなかなかインパクトが強いが、レイプリベンジ映画でも報復の決まり手として使われることはあまりないイメージだ。本作以外に『アイ・スピット・オン・ユア・グレイヴ(1978、2011)』『鮮血の美学(1972)』は有名だが、『The Ladies Club(1985)』というのもあるらしい。ただ、本作以外の3作品は全てレイプ被害者やその家族が犯人を懲らしめるために去勢するが、本作は直接的には無関係な相手を去勢するという意味ではエポックメイキングかもしれない。

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