作品情報
| 邦題 | サイレントナイト |
| 原題 | Silent Night |
| 公開年 | 2023 |
| 製作国 | アメリカ |
| 監督 | ジョン・ウー |
| 主演 | ジョエル・キナマン |
概要
主人公ブライアンは妻サヤと幼い息子テイラーと3人で幸せに暮らしていたが、クリスマスイブに息子のテイラーはギャング同士の銃撃戦の流れ弾に当たって死亡する。ブライアンはギャング達を追いかけ反撃するが、ボスのプラヤに背中と喉を撃たれ、一命は取り留めるが声を失ってしまう。
退院後にブライアンは息子を失った悲しみを妻と分かち合うことはせず、ただひたすら身体を鍛え、銃やナイフの特訓を行い、車を補強するなど復讐の準備を粛々と進める。そんなブライアンとの生活に限界を感じた妻サヤは家を出る。だがブライアンは引き留めない。
作戦決行は1年後のクリスマスイブ。ブライアンは息子の墓に玩具の列車を供えたあと、痛めつけて情報を吐かせたギャングのひとりと手紙とUSBメモリをヴァッセル刑事の家に届ける。要は警察がやらないから今夜自分がやるんだと。USBメモリには、ブライアンが調べ尽くしたギャング団の拠点、構成員、仕事の中身が記録されている。ヴァッセル刑事はその情報をもとにブライアンが襲撃するギャングのアジトへ向かう。
鑑定報告(Ver 1.4基準)
※採点基準の概要は「リベンジ映画鑑定要領(概要)」をご覧ください。
| 1 不条理(過失相殺) | 5/5 |
| 2 喪失(損害規模) | 4/5 |
| 3 被侮蔑(ナメられ) | 3/5 |
| 4 報復対象(安定性) | 5/5 |
| 5 敵の悪(邪悪性) | 3/5 |
| 6 後味(生存希望) | 5/5 |
| 7 配役(適正顔) | 4/5 |
| 8 演技(感情伝達) | 4/5 |
| 9 演出(爆発の美学) | 5/5 |
| 10 伏線回収(因果応報の設計) | 4/5 |
| 11 倫理の納得感(観客同調) | 4/5 |
| 12 敵の歯ごたえ(障害強度) | 5/5 |
| 基礎点合計(1〜12) | 51/60 |
基礎点の根拠
1 不条理:5/5
テイラーは、自宅の庭両親と過ごしていたところ、ギャング同士の銃撃戦の流れ弾が当たって死亡してしまう。子供に落ち度はない。ブライアンも、息子を殺された直後にプラヤを追い、反撃を試みるが返り討ちにされてしまう。予見の余地はなく、被害は突発的かつ一方的である。
2 喪失:4/5
ブライアンが失うのは息子だけではない。自分の声を永久に失い、妻サヤも家を出てしまう。ただし、全家族の惨殺や生活基盤の完全な消滅とまでは言えない。
3 被侮蔑:3/5
プラヤは、追ってきたブライアンの喉を撃ち声を奪う。買い物に出たブライアンが駐車場でギャングにぶつかられ、押し倒され、連れの女に飲み物をかけられる場面もある。ただし、敵がブライアン個人を長く見下し続ける構造ではない。
4 報復対象:5/5
報復対象は、テイラーを死なせたギャング一味であり、自分を撃ったプラヤである。息子に当たった弾を誰が撃ったかは明示されないが、自分を撃ったプラヤとその構成員であることは確実である。
5 敵の悪:3/5
プラヤ一味は住宅街で銃撃戦を起こし、無関係の子供を死なせ、追ってきたブライアンも撃つ。ただし、臓器売買や児童加害のような特級の外道性が描かれるわけではなく、犯罪の中身そのものも詳しくは描かれない。利欲と抗争を軸とするジャンル標準の悪である。
6 後味:5/5
ブライアンは恐らく生還しない。息子も戻らず、家庭も元に戻らない。だが、本作の後味は絶望ではなく救済へ向かう。復讐の鬼と化したブライアンは敵地に乗り込み、次々と現れる敵を倒してプラヤに辿り着き、自らも瀕死になりながらも刑事の援護を受けてプラヤにとどめを刺す。ブライアンは幸福だった頃の家族を走馬灯のように見て、表情は穏やかだ。墓前で妻サヤが読む手紙には、もう会えないこと、妻に非はないこと、テイラーは戻らないと知りながら死を覚悟して臨んだこと、二人を愛していることが綴られている。自身と相手の死をもって救済と平穏へ至る決着だ。
7 配役:4/5
ブライアン役のジョエル・キナマン他概ね違和感はない。
8 演技:4/5
本作は登場人物の会話が無い。その条件で、ジョエル・キナマンは喪失、怒り、妻への未練、死を覚悟した決意を、表情と身体で伝える。サヤが息子の絵を描き、ブライアンが車の中からそれを見る場面も、夫婦の断絶と、消えない感情の両方を見せる。
9 演出:5/5
事件前の家族の幸せな記憶を要所で回想シーンとして見せるなど、執行カタルシス型リベンジ映画的に隙が無い。小鳥(インコだが)やスローモーション、2丁拳銃、ラストの敵地へ乗り込んでボスに至るまでの敵の多さやテンポの良さは期待を裏切らない。さすがジョン・ウーである。
10 伏線回収:4/5
ブライアンは一年をかけて、身体、武器、車、敵の情報を準備する。妻が息子の絵を描く場面、息子の墓参り、ヴァッセル刑事への手紙とUSBメモリが、最後の襲撃へつながる。ラストの刑事の援護も最後のとどめに重要な役割を果たす。だが、捕らえて痛めつけたギャングから敵の全貌を引き出す部分には都合のよさも残る。
11 倫理の納得感:4/5
ブライアンがプラヤたちを標的にする理由に違和感はない。息子を殺され、自分も声を奪われ、警察は十分な報いを与えられなかった。ヴァッセル刑事も、警察側の不甲斐なさとブライアンへの負い目を抱えている。一方で、ブライアンは妻サヤとの生活を断ち切って復讐へ進む。父としての怒りには同調できる。だが、夫として、同じ喪失を抱えた妻をさらに傷つける点にはやや引っかかりが残る。
12 敵の歯ごたえ:5/5
プラヤの一味は数も武器も拠点も持つ組織であり、ほぼ素人のブライアンがプラヤに辿り着くまでに倒すべき敵は相当な数だ。ブライアンも援護に来たヴァッセル刑事も瀕死の重傷を負うことになる。
13 決着成立度(倍率): ×4.5
ブライアン自らプラヤにとどめを刺す。ブライアン自身が刑事を現場へ導いており、第三者の関与は復讐者本人の設計の延長上にあり、決着は本人の意思と行為によって成立している。ただし、ブライアンがプラヤに銃を向けられ絶体絶命の状況に陥るが、死んでいなかったヴァッセル刑事の援護により形勢逆転のきっかけとなったため、演出の良し悪し的な意味合いでは無く、理想には半歩及ばずという意味での4.5倍とする。
最終鑑定点:229.5/300(基礎点合計×決着成立度)
格付け:B級(良作)
総評
『サイレントナイト』は、息子を殺された父親の復讐劇である。題材そのものは単純である。だが本作は、復讐へ入る前に、夫婦が何を失ったのかを丁寧に描く。息子の死、失声、妻との断絶が積み重なり、ブライアンは家庭へ戻る道ではなく、我が子の仇討ちの道を選ぶ。ジョン・ウーが描こうとしたのは、この単純な復讐を、台詞を廃した映像で語り尽くすことだ。病室のインコ、訓練、墓前の玩具、刑事への手紙、走馬灯、カーアクション、2丁拳銃、飛び散る血しぶき、スローモーション、そして妻への手紙で、復讐の燃料の積み上げから執行と救済までを一切の台詞無しで表現する(スマホのメッセージアプリで会話するシーンはあるが)
本作の鑑定点を押し上げているのは、敵の外道性ではない。敵の悪はジャンル標準である。しかも敵の悪そのものの内容については具体的に見せない。プラヤやギャング団の悪質さの描き方はむしろ物足りない。効いているのは、幸せな生活が一瞬にして壊れ、普通の父親が一年をかけて自分を作り替え、恨みのモチベーションを維持して、最後は多数の敵を相手に傷だらけになりながらも仇討ちを果たす王道プロットだ。執行カタルシス型リベンジ映画に必須である幸せな家庭の様子も要所で回想シーンとして過不足無く見せる。ブライアンは生還しない。息子も家庭も戻らない。それでも、幸せだった頃の家族を写す走馬灯を見ているブライアンの穏やかな表情と、息子の墓前で妻が読む手紙とその表情から、ブライアンも妻も救済される決着だ。
雑記
『A JOHN WOO FILM』と名前が出ただけでテンションが上がる。もちろん、マークのテーマ曲(男たちの挽歌)も脳内で再生される。スローモーション、鳩(今回鳩では無くインコ)、火薬、2丁拳銃で弾倉が空になるまで敵も料理も撃ちまくる、そういう映画を期待して観ても裏切られない、最終決戦でブライアンが敵の本拠地にバイクで滑り込んでからボスを仕留めるまで約30人の敵と15分にも及ぶ死闘が繰り広げられる。その攻防戦は『ジョン・ウィック』以降の現代型ガンフースタイルだ。近距離で相手を制圧し、銃と身体が一体となり、流れるような動きで次々と現れる敵を倒していく。しかし、ジョン・ウィックと違ってブライアンはプロではない。弾倉が空になってもたついている間に攻撃を受ける。そしてラスボスにたどり着く頃にはボロボロになり、敵を倒し、瀕死だが満足げなブライアンと刑事二人の姿もまた男たちの挽歌のマークたちのようであり、ジョン・ウーの映画を観たなあ!という気分になる。
ギャングのボスとその彼女が残念なのと、ヴァッセル刑事はもっと活躍する余地があったと思うし、もったいないなあということくらいだ。特にブライアンと奥さん以外の人物は台詞がないとなかなかキャラクター設定が難しいのだろう。あと、そもそも、ギャングたちは自分らが何で襲われているのか把握してたんだろうか?途中拉致して情報を引き出したギャングのひとりにしゃべった可能性もあるが、その辺も説明が無いのでわからない。何で襲われているのか自覚してなかったらそれはそれでライダースオブジャスティスみたいなパターンで珍しい映画になり得るが。


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