作品情報
| 邦題 | コリーニ事件 |
| 原題 | Der Fall Collini |
| 公開年 | 2019 |
| 製作国 | ドイツ |
| 監督 | マルコ・クロイツパイントナー |
| 出演 | エリアス・ムバレク、フランコ・ネロ |
概要
『コリーニ事件』は、ある殺人事件の犯人の動機を明らかにしていく法廷劇だ。
事件は2001年ベルリン、ホテル・サークルの最上階で起こった。67歳のイタリア人ファブリツィオ・コリーニが、84歳の機械工業大手社主ハンス・マイヤーを今では誰も使わない古いワルサーP38を使って頭部に三発撃ち込み、靴が壊れるまで顔面を踏みつけるという凄惨なものだ。
逮捕されたコリーニの国選弁護人に指名された新人カスパー・ライネンにとって被害者マイヤーは父親のような存在であり、さらにマイヤーの孫娘はライネンの元恋人だ。しかも、マイヤー家側の公訴参加代理人は、ライネンの大学時代の恩師リヒャルト・マッティンガーで、ライネンにとっては世話になった人や、親しい人たちを相手に裁判を進めなければならない。頑として殺人の動機を語らないコリーニに困り果てるライネンだが、犯行に使用された銃の特定をきっかけにして事件の真相に迫っていく。
鑑定報告(Ver 1.4基準)
※採点基準の概要は「リベンジ映画鑑定要領(概要)」をご覧ください。
| 1 不条理(過失相殺) | 5/5 |
| 2 喪失(損害規模) | 4/5 |
| 3 被侮蔑(ナメられ) | 4/5 |
| 4 報復対象(安定性) | 5/5 |
| 5 敵の悪(邪悪性) | 5/5 |
| 6 後味(生存希望) | 5/5 |
| 7 配役(適正顔) | 5/5 |
| 8 演技(感情伝達) | 5/5 |
| 9 演出(爆発の美学) | 4/5 |
| 10 伏線回収(因果応報の設計) | 4/5 |
| 11 倫理の納得感(観客同調) | 5/5 |
| 12 敵の歯ごたえ(障害強度) | 3/5 |
| 基礎点合計(1〜12) | 54/60 |
基礎点の根拠
1 不条理:5/5
コリーニの父はドイツ兵を殺したパルチザンとは無関係にもかかわらず、息子コリーニの前で見せしめのために射殺するという最悪レベルの不条理である。
2 喪失:4/5
失ったのはコリーニの父親だ。コリーニは父の処刑を目の前で見せられたうえに、戦後に法へ訴えても不起訴に終わり、コリーニの姉は不起訴の理不尽を長年解消すること無く死亡する。
3 被侮蔑:4/5
マイヤーは当時十歳のコリーニを羽交い絞めにして父の処刑を強制的に見せる。更に戦後のマイヤーの不起訴からの社会的成功という理不尽はコリーニにとって耐えがたいものだ。
4 報復対象:5/5
報復対象は父たちの処刑を命じた元SS少佐のマイヤーただ一人だ。
5 敵の悪:5/5
マイヤーはSS少佐として民間人の処刑を指揮し、子供の前で父親を殺し、戦後は何ら告白も謝罪もなく社会的成功を享受する。法による追及にもドレーア法の盾で逃げ切る。戦時中と言えども、その残虐さに情状の余地は無い。
6 後味:5/5
裁判も終わりに近づき、マイヤーが不起訴となる根拠となった法律は間違いであったとマッティンガーが自ら認めたため、コリーニは判決を待たずに拘置所で自ら命を絶つ。コリーニの葬儀を故郷で終え、ラストシーンは子供時代のコリーニが、父ファブリツィオ・コリーニと再会し、手を繋いで去っていく。ライネンが見たその光景はコリーニの魂の救済でもあり、ライネン自身が抱えていた親子関係のわだかまりを解消するものでもあろう。
7 配役:5/5
コリーニ役のフランコ・ネロ他ベテラン陣がネロの周囲を固め違和感は無い。また、ライネンを手伝い秘書になるニーナ役のピア・シュトゥッツェンシュタインが本作の暗さやテーマの重さを和らげるカウンターとして非常に効果的なポジションだ。
8 演技:5/5
フランコ・ネロは、マイヤーを不起訴にした法律を信用していない、だから法廷で何も語らない。復讐の動機を語ったところで何も変わらない。目的は成し遂げた。あとは父と姉の待つ場所に行くだけだ。他には何もない。語らずとも訴えてくる演技を見せる。ライネン役のエリアス・ムバレクも親しい人たち相手に被告人の弁護をするという難しい役どころを見事に演じる。
9 演出:4/5
復讐執行シーンから始まり、徐々にコリーニの動機が明らかになり、終盤マッティンガーにマイヤーの不起訴は間違いであったと法廷で認めさせるべく、ライネンがマッティンガーを追い込んでいくシーンの緊張感、コリーニの回想シーン、そしてマッティンガーの非を認める言葉を確かに聞き、ライネンをじっと見つめ、感謝の言葉を述べ、留置所に戻るコリーニの最後の穏やかな表情は胸を打つ。ラストの写真と父子の再会で物語を閉じる展開も希望がある。また、法廷のシーンにおける裁判長や裁判員や傍聴席の記者達など脇役まで演出が非常に行き届いている。裁判長がコリーニの死亡を伝えるシーンの法廷内のリアクションなどは演技ではないのではと思わせるほどだ。
10 伏線回収:4/5
凶器ワルサーP38、マイヤー邸の図書室の同型銃、姉との誓い、ドレーア法、コリーニの黙秘がラストに向かってつながっていく。父との関係も重要なテーマだ。コリーニ親子、ルケージ親子、ライネンとマイヤーの疑似父子、ライネンと実父ベルンハルトの再接続が、ラストのコリーニ父子再会へ収束する。
11 倫理の納得感:5/5
コリーニの報復は違法だ。だが、父を殺したマイヤーを不起訴にした法は法治国家のそれでは無いとマッティンガー自身が認めた。また、マイヤー側のマッティンガーやマイヤーの孫ヨハンナは真実が明らかになって行くにつれて、マイヤーの過去の罪を無かったことには出来ないものだと理解して変化していく様に人間性がみてとれる。
12 敵の歯ごたえ:3/5
マイヤーは八十四歳の実業家で、コリーニの執行を物理的に阻む相手ではない。ホテルでの殺害に大きな障害はなく、確実に遂行される。法廷の障害(マッティンガー、不起訴の前歴、ドレーア法、戦後社会の権威)がコリーニとライネンに立ちはだかるものの、ライネンたちのチームワークで突破する。ライネンの度重なる法廷ルール違反を指摘しつつも理解を示す裁判長のアシストも重要だ。
13 決着成立度(倍率): ×4
コリーニは自らの手で復讐を果たした。しかもコリーニの父にとどめを刺したワルサーP38で同じ数だけ頭に銃弾を撃ち込むという再現タイプの執行だ。だが、執行方法そのものについてはほぼ理想的と言えるが、執行自体が復讐のカタルシスに結びつかないため止むを得ず4倍とする。
最終鑑定点:216/300(基礎点合計×決着成立度)
格付け:C級(佳作)
総評
一般的なリベンジ映画と同じ基準で観るのは難しい映画だが、本作はマイヤーを殺すことと、マッティンガーにドレーア法は間違いであったということを渋々でも法廷で認めさせたことはコリーニにとって復讐の仕上げとも言えるだろう。
だが、コリーニは復讐を終え、不起訴の理由も判明し、弁護士のライネンも本当に良くやってくれた、でも、それで得たのは満足感でもなく達成感でもなく、後悔でもなく、何もないという空虚ではなかろうか。父は戻らず、姉も戻らず、自分の人生も戻らない。コリーニの最後の言葉「死者は復讐を望まない、望むのは生者だけだ」という言葉は、復讐を父の意思として正当化しないためのものだろう。姉も望まなかった。それを望んでいたのは、生きている自分だった。願いは叶ったが、そのあとには何もなかった。そう悟ってコリーニは死を選んだのだろう。
雑記
いい映画だ。コリーニもライネンもニーナもいいのだが、この映画の何が良いって元カノのヨハンナとこじれたまま終わらせなかったところだ。マッティンガーも最後クソ野郎で終わらなくて良かった。あと、こんな感じの良い裁判長もなかなかいない。こういう登場人物それぞれの関係の顛末まで手抜きしないからこそ後味の良い映画になるのだ。裁判所から送られてきたコリーニ親子の写真のシーンがあって、コリーニの葬儀があって、最後いきなりファンタジーだが、映画的でいいと思う。直前の写真も効いている。ボール投げたら角から現れるのではなくて、最初からこっち観て立ってても良かったのでは。
あと、ピザ屋のバイトからライネンの秘書になるニーナはミレニアムシリーズのリスベットをマイルドにした感じで、この1作で終わらせるにはもったいないキャラだ。ライネン弁護士と助手のニーナの弁護士事務所を舞台にした映画でも小説でも作ればいいのにと思う。


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