少女は悪魔を待ちわびて(2016年韓国)

少女は悪魔を待ちわびて(2016年韓国)
邦題少女は悪魔を待ちわびて
原題널 기다리며
公開年2016
製作国韓国
監督/脚本モ・ホンジン
出演シム・ウンギョン、キム・ソンオ、ユン・ジェムン

概要

『あやしい彼女』のシム・ウンギョン演じる主人公ヒジュは幼い頃に刑事の父親を殺された。7件の殺人で逮捕起訴されたギボムによる犯行と思われたが、ヒジュの父親の件を含め6件は裁判で立証できず、ギボムは1件の殺人罪で15年服役して出所した。成長したヒジュは父親を殺した犯人ギボムに対する復讐を企て実行に移すが、自分の他にもギボムを狙うものがいることを知り利用することを思いつく。

※採点基準の概要は「リベンジ映画鑑定要領(概要)」をご覧ください。

1 不条理(過失相殺)4/5
2 喪失(損害規模)3/5
3 被侮蔑(ナメられ)3/5
4 報復対象(安定性)4/5
5 敵の悪(邪悪性)4/5
6 後味(生存希望)2/5
7 配役(適正顔)4/5
8 演技(感情伝達)4/5
9 演出(爆発の美学)4/5
10 伏線回収(因果応報の設計)3/5
11 倫理の納得感(観客同調)2/5
12 敵の歯ごたえ(障害強度)3/5
基礎点合計(1〜12)40/60

基礎点の根拠

1 不条理:4/5

幼い頃に刑事である父親を殺されたヒジュにとっては理不尽ではあるものの、連続殺人犯を追う刑事という職業柄全く予見できないとは言えない。

2 喪失:3/5

ヒジュにとっては実質唯一の肉親と言える父親を失った。実の母親は別の男と暮らしており、後に自殺する。原因はヒジュにも責任の一端があるように描かれているが、ギボムとは関係が無いので考慮しない。結果的に両親を失うことになるが、喪失の規模的には標準と言える。

3 被侮蔑:3/5

ギボムがヒジュの父親やヒジュを侮蔑しているようには描かれない。しかし、ギボムはミンスと共犯関係にあるシリアルキラーとして描かれており、その犯行の内容については一部分しかわからないが、風俗嬢とドライバー殺人事件のあとに取り調べを受けた際、何を考えて生きているんだという質問に対して『優越感』と答えて班長からぶっ飛ばされており、つまりギボムは優越感を感じることができる自分よりも弱いものに手をかけると推測できるため、被害者全般に対しては基本的には侮蔑的な行動と思われる。

4 報復対象:4/5

ヒジュの報復対象は父親を殺したギボムだ。しかし、ギボムが犯人であるとヒジュが確信した経緯が具体的には描かれないため、ギボムが犯人であることは間違いないのだが、説得力に欠ける。

5 敵の悪:4/5

ミンスと共同で12人を殺害。殺害することを目的としたシリアルキラーであり、概念的な悪のレベルは最高だ。しかし、映画ではヒジュの父親であるナム班長と、ギボムの彼女で浮気したユンジョン、後半ホテルから脱出する際に巻き添えになった2人、救急隊員とチャ刑事(班長の部下)は負傷という規模である。

6 後味:2/5

良くない。結果的にギボムは死刑判決となりヒジュの目的は果たされるものの、ヒジュも自ら命を絶ってギボムに責任を負わせるという方法をとった。

7 配役:4/5

違和感はない。特にシリアルキラー二人、ギボム役のキム・ソンオとミンス役のオ・テギョンの存在感が強い。

8 演技:4/5

キム・ソンオとオ・テギョンのシリアルキラー2人の迫力のおかげで作品の緊張感が保たれていると言える。ヒジュ役のシム・ウンギョンも2面性のある役をよく演じているとは思うが、強力なシリアルキラー二人と対峙するキャラクターとしては弱く見えてしまう。

9 演出:4/5

ヒジュ、ミンスと比べて、ギボムの犯行があまり描かれないため、ギボムの残忍さはあまり伝わってこない。ギボムよりもヒジュの異常性のほうが高く見えてしまう。床に割れた瓶を一面に敷き詰めてミンスを殺害するシーンなど、ヒジュの残忍な性質を良く表している。

10 伏線回収:3/5

全ての死をギボムの犯行に見せかけるためにヒジュは工作するものの、細部に無理がありすぎて、結果的に納得のプロットとは言えない。

11 倫理の納得感:2/5

ヒジュの目的はギボムを殺すことでは無く、裁判にかけて死刑台に送ることだ。その目的を達成するためには手段は問わないキャラクターとして描かれており、例えば母親の再婚相手の殺害だけでなく、結果的にミンスが執行した風俗嬢とドライバー殺害もヒジュの計画の内だったような描かれかたをしているため、ヒジュに対して倫理的に共感するのは難しい。

12 敵の歯ごたえ:3/5

ヒジュとギボムの直接対決はホテルでの不意打ちとラストのヒジュが追いかけられるシーンのみであり、どちらもヒジュが互角~優勢だ。しかし、ギボムを死刑台に送るために最終的には自身の命までもかけたという意味ではそれなりのものはある。

最終鑑定点:120/300(基礎点合計×決着成立度)

格付け:D級(不発)

ストーリーもプロットも細かいことを抜きにすれば良いし、キャスティングも良い、執行カタルシス型リベンジ映画とは言えなくても面白い映画と言いたいところだが、説明が足りない部分や都合が良すぎる部分など細かいけど無視できない部分が多すぎて残念だ。例えば、

・なぜヒジュは不起訴になったギボムを犯人と断定出来たのか。
・ヒジュによる母の再婚相手殺害は結果的にギボムの犯行になってしまったが、偶然なのかそれともどの程度計算していたのか、計画にしては杜撰過ぎる。殺害方法も石で散々殴ってから首を斬りつけるというのも、ギボムの犯行と見せかける計画であるならばどうなのか。
・警察に正式に出入りしているとは言えども、雑用係のヒジュが殺人事件の捜査資料など簡単に入手できるものなのか。
・ギボムの出所後の懐事情が全く不明、ホテル代、風俗代、その他生活費どう工面しているのか。
・風俗嬢とドライバー殺人事件でアリバイがあるギボムを捕まえた経緯。
・警察にマークされているはずのミンスが同じくマークされているギボムの部屋に侵入出来てしまう。
・情報提供者のミンスとギボムが過去に同じ施設にいて友人関係だったことに今さら気づく警察。
・大量の空き瓶を人手を使ってトラックでミンス宅に運ぶ。
・同じ店で何度も大型犬用の首輪を買ってしまう。
・監視されているギボムの部屋にミンスの死体を持ち込む。
・ギボムは新聞社に電話をして無実を訴えたら1面トップ記事にしてくれた。
・ヒジュはLSOの韓国公演を楽しみにしていたのでは?それまでに決着させることを望んでいたはず。冒頭の音楽好きの設定が無意味になっている。

まだあるが、よく分からない部分やこれはどう考えてもおかしいだろという部分が多すぎると、せっかくの良い印象も諸々に引きずられて結果的に完全に飲み込まれてしまう。執行カタルシス型リベンジ映画としてどうなのかという話以前の問題だ。しかし、ヒジュ、ミンス、警察の3者からそれぞれの事情で恨まれるギボムが追い詰められていくという構図は良かった。

雑記

ギボムは15年服役後に出所するが、いきなりスマホを使いこなしていたり、ホテルに泊まったり、風俗嬢を呼んだり、ネットカフェ行ったり、それらの金をどう工面しているのか謎だ。金持ちなのか、誰かから出所祝いでももらったのか。『オールド・ボーイ』のように、解放されて放り出されたあと、オ・デスとミドが催眠術でくっついてミドの部屋に転がり込むなど、居場所やその後の行動まで復讐計画に組み込まれている作品と比べると詰めの甘さが目立つ。催眠術はどうかとも思うが、それでも辻褄は合う。全て霊のせいに出来ない映画はある程度のつじつま合わせは必要なのだ。

あと、ギボムが風俗嬢を呼んだ際に風俗嬢から服を脱いでくれと言われたら、『だから捕まった』とギボムが言った。つまりどういうことだろうか?全裸だったから逃げ遅れたということだろうか?ということは、最後捕まったときは現行犯逮捕の可能性もある。しかも全裸で。唯一有罪になったユンジョン殺人事件はミンスの情報提供で捕まっているので、全裸で犯行に及んでいるが、現行犯逮捕では無いと思われる。事件が起こることを事前に察知したミンスが警察にたれ込んだけど警察の突入が間に合わなかったとも取れるが。わからんけど。ということは、『服を脱いでいたしてたから逃げ遅れて現行犯で捕まった、しかもユンジョン殺人事件以外で』と読めば少なくとも2件は有罪にならないとつじつまが合わない。かもしくは、犯罪とは無関係にただ遊んでいた現場をミンスの情報提供で押さえられたか。謎は深まるばかり。

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