ハムレット

邦題ハムレット
原題Hamlet
公開年1996
製作国イギリス・アメリカ
監督ケネス・ブラナー
主演ケネス・ブラナー

概要

映画『ハムレット』は、ケネス・ブラナー監督・主演による1996年のイギリス・アメリカ合作映画である。シェイクスピアの戯曲『ハムレット』を、ファースト・フォリオに第2クォートの補足を加えた完全版テキストで映画化し、上映時間は4時間2分に及ぶ。時代設定は19世紀ヨーロッパ風に移されており、エルシノア城は白と金を基調とした壮麗な宮殿として描かれる。

原作は西洋演劇における復讐劇の原型のひとつに数えられる作品である。国王である父親を叔父クローディアスに毒殺され、母ガートルードは叔父と再婚、王位は叔父のものとなる。亡霊として現れた父から死の真相を聞かされたハムレットは復讐を誓う。

この映画は、執行カタルシス型リベンジ映画としてははまりにくい。それは、復讐の向き先や動機がぶれるということではなく、執行までの遅延と、その間に積み重なる偶発的な二次被害三次被害にある。それはまさにハムレットにとって想定外の悲劇であり、それがこの作品の本質だ。

※採点基準の概要は「リベンジ映画鑑定要領(概要)」をご覧ください。

1 不条理(過失相殺)4/5
2 喪失(損害規模)3/5
3 被侮蔑(ナメられ)3/5
4 報復対象(安定性)5/5
5 敵の悪(邪悪性)3/5
6 後味(生存希望)1/5
7 配役(適正顔)3/5
8 演技(感情伝達)4/5
9 演出(爆発の美学)3/5
10 伏線回収(因果応報の設計)3/5
11 倫理の納得感(観客同調)3/5
12 敵の歯ごたえ(障害強度)3/5
基礎点合計(1〜12)38/60

基礎点の根拠

1 不条理:4/5
国王である父は叔父に毒殺され、王位も奪われる。ただし王座をめぐる権力争いは古今東西珍しいものではない。

2 喪失:3/5
きっかけは国王である父親の殺害であり、家族全体や生活基盤が崩壊する型ではない。後にオフィーリアが水死するが、喪失の規模としては標準である。

3 被侮蔑:3/5
クローディアスはハムレットを表面上は気遣う。ただし英国送りの暗殺計画からわかる通り、内実ではハムレットを自身の権力基盤を揺るがしかねない障害物としか見ていない。直接的な侮辱というより、戦略的な軽視である。

4 報復対象:5/5
標的はクローディアスで最初から最後まで一貫している。ハムレットの怒りの向き先は物語を通じてぶれない。ポローニアスの誤殺やオフィーリアへの仕打ちは標的の移動ではなく、標的を討つ過程での副次的な損害である。

5 敵の悪:3/5
兄を毒殺し、王位と兄の妻を奪うのは重罪である。ただし宮廷における兄弟殺しや王位簒奪はジャンルとして珍しくなく、児童加害や臓器売買のような特級の邪悪性には達しない。利欲目的の殺人として標準の水準にある。

6 後味:1/5
ハムレット、クローディアス、ガートルード、レアティーズ、ポローニアス、オフィーリア、ロウゼンクランツ、ギルデンスターンが死ぬ。デンマーク王家は消滅し、敵国のノルウェー王子フォーティンブラスが労せずデンマークを押さえる。救済の余地はない

7 配役:3/5
ブラナーはシェイクスピア役者として安定した佇まいを持つが、復讐遂行者としての殺気は薄い。

8 演技:4/5
ブラナーは四時間を通して中心に立ち続ける。膨大な独白の量と密度を考えれば、その持久力は相応に評価できる。ジェイコビのクローディアスとウィンスレットのオフィーリアも場面を支える。

9 演出:3/5
70mmパナビジョンによる宮殿の造形、長回しの使い方、音楽の重厚さは舞台を超えた規模を実現している。ただし、復讐映画として見てしまうと、執行までの溜めが長すぎることもあり、カタルシスは薄まる。

10 伏線回収:3/5
劇中劇、毒、剣、国書の書き換えは終盤で機能する。これはシェイクスピアの原作を忠実に映像化した結果であり、映画独自の仕掛けが加わっているわけではない。回収の気持ちよさは標準の水準である。

11 倫理の納得感:3/5
狂人を装うという手段をとったせいで結果的に巻き添えが出るが、父の無念を晴らすことに燃えるハムレットに対して倫理的な違和感は無い。

12 敵の歯ごたえ:3/5
クローディアスは策略に長けた宮廷の手練である。毒殺計画、英国送り、レアティーズとの毒剣試合の演出は練られている。ただし物理的な強敵ではなく、対決の価値を決定的に高めるほどの障害強度には達しない。

最終鑑定点:152/300(基礎点合計×決着成立度)

格付け:D級(不発)

『ハムレット』は、西洋演劇史における復讐劇の最高峰であり、映画としての完成度も高い。ブラナーが四時間もの完全版を映像化した試みは、映画史的な意義を持つ。

一方で、リベンジ映画鑑定所の物差しで見ると、本作は不発に終わる。燃料は十分に揃っている。父王の毒殺、母の裏切り、王位の簒奪。標的も最初からクローディアスで一貫している。だが、ハムレットの逡巡は執行を遅延させ、その間に周囲を巻き込み、最後は自らの死と引き換えに目的を果たす形になる。結末で王家は全滅し、敵国に乗っ取られる。復讐は成立するが、それは勝利ではなく道連れであり、執行カタルシスは薄い。

だが、これは作品の欠陥ではない。原作そのものが悲劇の連鎖と復讐の虚しさを描く作品である以上、カタルシスが薄くなることは当然の帰結である。これは執行カタルシス型リベンジ映画ではなく、復讐の遅延と自壊を描くアンチ・リベンジの古典である。

雑記

ハムレットは過去に何度も映画化されており、上映時間は1948年版が155分、1964年版が140分、1969年版が118分、1990年版が135分、1996年版の本作が242分、2000年版が112分。本作は断トツ長い。忠実に作るとこうなってしまうから、他の作品は諸事情鑑みて短縮版にしたんだろう。映画館の椅子に4時間拘束されるとなると、ポップコーンもコーラもインターミッションでおかわり必須だ。ちなみに本作は1996年12月にアメリカで公開時は3館でスタート、イギリスで公開されたのが翌年1997年2月でここで93館まで増えるがここで頭打ち。翌月の3月末にはなんと36館まで減ってしまう(同じタイミングで公開されたジョン・トラボルタのマイケルが封切り2141館、トム・クルーズのザ・エージェントが2531館)。制作費1,800万ドルに対して興行成績が約700万ドル。仮に同時期に公開されたスクリームやトム・クルーズやジョン・トラボルタと被らなかったとしても厳しかったかもな。

コメント