トマホーク ガンマンvs食人族(2015年アメリカ)

邦題トマホーク ガンマンvs食人族
原題Bone Tomahawk
公開年2015
製作国アメリカ
監督S・クレイグ・ザラー
主演カート・ラッセル

概要

映画『トマホーク ガンマンvs食人族』は、S・クレイグ・ザラー監督・脚本によるアメリカ映画である。1890年代の西部開拓時代を舞台に、食人族に誘拐された町の住人を救うべく、保安官と3人の男が洞窟地帯へ向かう旅を描く。ザラーの監督デビュー作。主演はカート・ラッセル、共演にパトリック・ウィルソン、マシュー・フォックス、リチャード・ジェンキンス、リリ・シモンズ、デヴィッド・アークエット。

本作は救出型リベンジ映画の骨格を持ちながら、西部劇と食人ホラーを融合させた特異な作品である。舞台は1890年代、西部辺境の町ブライト・ホープ。食人族「トログロダイツ」が、保安官事務所にいた医師助手サマンサ・オドワイヤー、副保安官補ニック、保安官に撃たれて負傷したならず者パーヴィスを夜のうちに連れ去る。保安官ハント、足を怪我しているサマンサの夫アーサー・オドワイヤー、老齢の副保安官チコリー、先住民に恨みを持つ副保安官ブルーダーの4人が、食人族の洞窟へ救出に向かう。

この映画の最大の特徴は、前半と後半でジャンルが完全に切り替わる構造である。前半は町の日常、4人の会話、結婚観や人生観についての対話、先住民との文化的な対比など、登場人物たちの距離感と信頼関係を丁寧に積み上げていく。

後半、一行が洞窟地帯に到達すると、映画は一気にホラーへ転調する。食人族は通常の先住民とは別系統の、言語を持たない原始的な部族として造形されており、骨笛のような音を喉から発する。彼らによる捕虜の処刑場面は、映画史に残る凄惨な描写として語り継がれるほどだ。

この映画の出発点はリベンジ映画というよりも拉致されたサマンサの救出が主な目的であり、また決着の形も、復讐者自身の設計というより、生き残った者による消耗戦としての性格が強い。最終的にサマンサの救出は成功するが、大きな犠牲も伴うことになる。
映画としての完成度は高い。ラッセルの重厚な佇まい、ジェンキンスの老助手チコリーの温厚さと存在感、ウィルソンの肉体的苦痛を抱えながら進む執念、フォックスのガンマンの自負と最期の自己犠牲。4人それぞれが明確な個性を持ち、演者もその役を完全に生きている。

ただし、復讐映画として測ったときの本作は、燃料の質と執行の形がやや噛み合わない。救出そのものは成立するが、犠牲が大きく、食人族への制裁が組織的な壊滅ではなく個別の応酬として進むため、執行カタルシスは通常の西部リベンジ映画より抑制されている。ホラーの質感が全体を覆うことで、復讐の爽快感より生存の苦さが前に出る構造である。

※採点基準の概要は「リベンジ映画鑑定要領(概要)」をご覧ください。

1 不条理(過失相殺)4/5
2 喪失(損害規模)2/5
3 被侮蔑(ナメられ)3/5
4 報復対象(安定性)3/5
5 敵の悪(邪悪性)5/5
6 後味(生存希望)3/5
7 配役(適正顔)5/5
8 演技(感情伝達)5/5
9 演出(爆発の美学)4/5
10 伏線回収(因果応報の設計)3/5
11 倫理の納得感(観客同調)4/5
12 敵の歯ごたえ(障害強度)4/5
基礎点合計(1〜12)45/60

基礎点の根拠

1 不条理:4/5
アーサーの妻であるサマンサ達が夜間に保安官事務所から誘拐される。住人側に落ち度はない。ただし物語の出発点は、主人公個人の人生が一方的に壊される型ではなく、救出劇として始まる。

2 喪失:2/5
出発点で失われるのはサマンサや町の住人を「拉致された」ことであって、その時点ではまだ取り返しのつかない喪失ではない。復讐の燃料が強くなるのは、ブルーダーが食人族の攻撃により致命傷を負い、洞窟でサマンサと共に拉致されたニックが惨殺されてからである。

3 被侮蔑:3/5
食人族は捕虜を人間として扱わず、食料として処遇する。ただし言語を持たない部族のため、意図的な侮辱というより野生動物の捕食行動に近いものがある。人格否定の意図が読み取りにくい。

4 報復対象:3/5
報復の向き先は食人族という集団で一貫している。ただし個別の敵として明確な顔を持つ相手が存在しないため、標的の安定性は中程度にとどまる。

5 敵の悪:5/5
誘拐、捕食、身体の切断による処刑。情状酌量の余地がない残虐性であり、邪悪性は最高水準にある。

6 後味:3/5
サマンサとアーサーとチコリーは生還する。ただしブルーダーとニックは死に、保安官ハントは致命傷を負っているため、洞窟に残って食人族の残党と戦う選択をする。完全な救済でも完全な絶望でもない。

7 配役:5/5
カート・ラッセルの保安官、リチャード・ジェンキンスの副保安官、パトリック・ウィルソンの夫、マシュー・フォックスのガンマン。4人の造形と俳優の組み合わせが完璧で、画面に立っているだけで人物の輪郭が伝わる。

8 演技:5/5
特にジェンキンスのチコリーは老齢の温厚さと勇気を同時に体現している。ラッセルの重厚な沈黙、ウィルソンの肉体的苦痛の持続的な表現、フォックスの傲慢さから自己犠牲への移行も見事。台詞の合間の沈黙が役者の力で成立している。

9 演出:4/5
徐々に緊張感を高めていく演出が効果的だ。また、音楽を意図的に最小限にすることで、西部の荒野の孤立感と食人族の襲撃の衝撃が際立つ。ただし前半の遅さが執行カタルシスを薄める効果も生んでいる。

10 伏線回収:3/5
旅の途上で積み上げた役割分担や人物関係は最後に機能する。ただし複雑な伏線回収の快感というより、直線的な因果の提示にとどまる。

11 倫理の納得感:4/5
妻を救うという動機は純粋であり、食人族という敵の設定も倫理的な曖昧さを生まない。観客は救出側に素直に肩入れできる。ただし、ブルーダーが有無を言わさず射殺した二人のメキシコ人が善人だったのか悪人だったのかがはっきりしないという点に引っかかりが残る。

12 敵の歯ごたえ:4/5
食人族は数的優位と洞窟という地の利を持ち、4人のレスキュー隊に対して圧倒的な脅威として機能する。物理的な強敵であり、勝利の価値は高い。ただし個別の知性を持つ敵ではないため、頭脳戦としての歯ごたえは薄い。

最終鑑定点:135/300(基礎点合計×決着成立度)

格付け:D級(不発)

『トマホーク ガンマンvs食人族』は、西部劇と食人ホラーを融合させた独自のジャンル作品として、映画としての完成度は非常に高い。演者の揃った重厚なキャスト、ザラーの独特のスロー・バーン演出、食人族の洞窟場面の圧倒的な凄惨さ。どれも印象に残る。

ただし、リベンジ映画鑑定所の物差しで見ると、本作は不発に終わる。誘拐、救出、敵の邪悪性と燃料は揃っている。救出は成立するが、犠牲も大きく、決着は復讐者の設計というより消耗戦の結果に近い。

これは作品の欠陥ではない。意図的な演出方針であり、西部劇とホラーの融合という実験の必然的な帰結である。観客にカタルシスを届けるためではなく、辺境の凄惨さを描くために作られた作品だ。これは執行カタルシス型リベンジ映画ではなく、救出劇の形を借りて辺境の凄惨さを描く西部ホラーの秀作である。

雑記

事前情報でどんだけ凄惨なゴア描写なのか身構えていたが、思ったほどでも無かった。ニック副保安官が食人族に殺されるシーンよりもむしろ、脚を負傷しているアーサーの患部をチコリーがハンマーで打ち付けるシーンで思わず目を背けた(インパクトのシーンは無いのだが)

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